023 のんちゃんのブログ王
クリスマス。
幸運にも、今年のクリスマスは日曜だった。メールでのんに連絡を取ったのは、金曜日の夜である。クリスマス……のんにだって予定があるかもしれない。そんな日に「君に会いたい」ってのも非常識で、どうかとも思った。でも、のんに俺の気持ちを伝えるのはこの日しかない。そんな気がした。土曜日、のんからの返事はなかった。半ば諦めかけた夕方。待ちわびたメールが届く。のんからの返事だった。
メールを開く瞬間、脈打つ心臓の高鳴りが痛かった。
───こちらこそ、よろしくお願いします。うれしすぎて、お返事が遅れてごめんなさい。
この子は、うれしすぎると連絡が遅れるのか……。
「サヨ! ちょっと、ちょっと」
俺が出発の準備をしていると、アヤ姉が俺の部屋に入ってきた。また、命令? 俺は、謎の微笑みに恐怖を感じた……。
「今、忙しいんだけど……」
俺は無駄な抵抗を試みる。
「サヨ、あの子と会うんでしょ? これ持って行きなさい。金の無い男は嫌われるぞぉ~」
アヤ姉は、俺の目の前で茶封筒をチラつかせた。
「……」
それ、なんや? てか、のんの話を、なんで知ってる?……じいちゃんか?
「はい! どうぞ(笑)」
そう言って、アヤ姉は俺の頭をワシャワシャと撫でた。俺の髪はグシャグシャだ。グジャグジャになった髪の上に、アヤ姉は茶封筒をポンと乗せた。
茶封筒の中身は現金だった。
「ツクヨの子守代とボーナス。しっかり、弾んでおいたわよ!」
「お、お姉様ぁぁぁ!」
俺の顔から笑みがこぼれた。帰りの運賃が危なかったからだ。最悪、ゆきお嬢様に泣きつく覚悟もできていた。そこへ臨時収入が入ったのだ。俺は、内心ホッとした。きっと、これはじいちゃんの差し金だろう。姉ちゃん、じいちゃん……ノープランの家族を持って、大変、ご心配をお掛けしてます……。
でも……ありがとう。
───クリスマスの朝。
俺はひとり、早朝列車に飛び乗った。目的地はのんが待つ静岡である。マリンライナーが瀬戸大橋を走る頃、友と作った小説を開いた。岡山駅で新幹線に乗り換えて、新大阪駅に着いた時、本の続きを読み終えた。
小さな富士山が車窓から見えた。のんからのメールに幾度も書かれた“富士山”の文字。それが幻を見せたのだろう。のんは、富士山が大好きな女の子だから。見えぬはずの富士山に、俺の心臓が弾けそうだ───もうすぐ、君に会えるから……。
俺に抱えられた二冊の本。
その題名は───のんちゃんのブログ王。
クーッ! 決まったな。
俺のドタバタ話はここまでである。小説のテイに従うのなら、ここで終わらせるのが美しい。けれど、のんとゆいとの物語も絶賛同時進行中なのである。ブログとは言葉で体験を伝える装置。だから物語の続きを書こう。
だって、のんちゃんのブログ王は俺だから(笑)
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