桃の間引きと、桃の実の花言葉 

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桃の実
雑記・覚書き
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───暇?。

暇っちゃ暇だし、そうで無いちゃそうで無い。知ってる、それ、桃でしょ?。闇のネットワークから事前情報もらってた。だから電話の要件も分かってた。風薫る桃の季節。コロナ禍以降、海外からの労働力が得られない。つまり、農家は人手不足。労働力として、僕に白羽の矢が立ったのだ。ド素人の僕にお声が掛かるのだから、人手不足が深刻なのだろう。

で、何をお手伝いすればよろしいですか?。

───桃の間引き。

簡単に間引くと言うけれど、安請け合いは少し怖い。そこには熟練の腕とか、プロの目線とか、長年のカンだとか、そんなものが僕には無い。大切な商品がおじゃんになったら大変だ。桃太郎さんに怒られる。念のため、確認のため、僕で良いのか問い返す。

───誰にでも出来る簡単なお仕事です!。

悪徳副業サイトですか?。携帯電話の向こう側、香ばしい空気、夏はすぐそこ。おやおや、その回答は穏やかじゃないな。先ずは時間の調整とか、打ち合わせとか、そこから全てを始めよう。「いつから?」そう、僕は希望日時を訊ねた。

───今からでしょ?。

嘘でしょ?。

いつもそう、いつだってそう。本人不在で纏まる案件。今にも泣き出しそうな曇天のもと、この桃畑の片隅に僕は佇んでいます。すずさん、困ったねぇ〜。しみじみニヤニヤ出来ないねぇ〜。桃の木は見慣れてる。珍しくも無いけれど、教室から眺めるテニスコートと同じ。遠くから見てるだけで画素が荒い。畑に入り鼻先で見る桃の枝、もうね、これでもかってくらいのVR。手を伸ばせば青い実が掴めそう。実際、これから数万個の桃の実を掴む事になるのだけれど。

桃

───やり方、教えて。

間引きのレクチャー、秒で終了。文字を起こしても文字数伸びない。時間にして5分足らず。要約すると、上を向いている実、枝の根本の実、色が変な実、虫食いがある実を間引く。枝には実を3〜4個残すイメージが素敵。

了解、ラジャー、記憶しました。

───お手伝い班、いざ、出陣!。

作業開始、その途端に手が止まる。桃の実が数珠繋ぎ。指示通りに間引いても10個ほどが枝に残る。間引くべきか残すべきか、そこが問題である。一本の枝ごとに選択を迫られる。イカゲーム化する桃畑。取るか取らぬか。確信持てぬ二択の連続、理不尽なゲーム、未だ出口見つからず。

───残り10秒!赤か青か。

緊張感が続くと人は妄想へと逃避する。コードを選ぶ爆弾処理班。この任務が終わったら、俺、プロポーズするんだ。桃の実を間引く───ただそれだけなのに顔は石原裕次郎。誰にでも出来る簡単なお仕事じゃ無かった。むしろ逆。美味しく育つ桃の実にハートマークでも付いてれば良いのに…。熟練者には見えている、その印が僕には見えない。赤と青のジレンマに手が止まる。

───桃の花言葉は、あなたの虜。でも今は、あなたから脱却したい…。

赤青ゲームを繰り返す。頭をかすめる質疑応答、それは頭の片隅へ。そのうち行き着く無我の境地。つまり、慣れである。黙々と作業をこなす。お昼を挟んで午後から雨。あっという間に作業中止。初日はここまで、また明日。

───慌てる必要は無い、先は長いのだから。

間引きが終わると袋掛け。袋を掛けながら更に間引く。蝉の鳴く頃、嫌でも合否が出るだろう。タカさんチェックはもう少し未来。楽しみでもあり不安でもあり。ちなみに、桃の実の花言葉は、天下無敵。

なんかカッケーな、オイ!。

桃の木

美味くなれ!。

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