#ホラーと小説は相性が悪い

#ホラーと小説は相性が悪い
金曜日(小説の話)

 金曜日は小説の話

───2024年1月15日(月)

 X(旧Twitter)で〝#ホラーと小説は相性が悪い〟がトレンド入りした。僕はホラーを書かないけれど、師と仰ぐスティーヴン・キングは、モダンホラーの帝王である。

 いったい何が起こっているのか……?

 興味本位でハッシュタグを追ってみると、Xの中で様々な考察が語られていた。ホラーと小説との相性問題について。ホラーを書かない者は肯定し、ホラーを書く者は否定した。そして、読者の考えは多種多様。そりゃそうなる。

 これは僕の主観だけれど、ホラー映画は精神のえぐり、ホラー小説は心をえぐる。言い換えれば、映像と文章とでは、本能と心のどちらを刺すか? そんなところだろうと考えている。

 僕はホラーを好まない。人が壊される映像も描写も苦手だから。生爪を一枚、一枚、ペンチで剥がす……書いてる僕がゾッとする。我が師の描く恐怖は別のところにある。だから、映画も観るし小説も読む。

 どちらかと言えば、強く恐怖が残るのは文字であると僕は思う。自分の脳が描き出す、残酷な映像は思いのほか消えにくい。下手すりゃ夢にまで現れる。そんな意味から、ホラーと小説との相性は、とてもよいと考えている。この件について、僕の見解はこれである。自分の書く小説に、グーパンチすら出ない描写だけれど……。

 折角なのでこれから、少し怖い話をしよう……。ちょっとした僕の恐怖体験を語ってみよう。馬鹿ゆえに、馬鹿だから……これは、無知が招いた映画館での実話である。

 ホラーは好きだけれど映画は苦手。

そんな僕が、高校3年の冬。つまり、1985年2月。西高東低寒空の高校からの帰り道、僕は同級生と映画館に立ち寄った。学食でうとんをシバキながら約束したのだ。今日は帰りに映画を観よう!と。それが当時の僕の彼女……そう言いたいところだけど、残念ながら野郎である。

 アホな僕らのお目当て映画。その題名は、皇帝密使こうていみっし(主演サミュエル・ホイ)。当時、ジャッキーアクション全盛期であり、それに連動して香港映画も絶頂期の中にあった。皇帝密使の前の週、僕らは、同じく香港映画のチャンピオン鷹(主演ユン・ピョウ)を満喫していた。その流れからの皇帝密使。香港映画だから一緒に観よう。それは、娯楽が映画時代の自然な流れである。つまり、僕らにとって、ぶっちゃけ、香港映画なら何でもよかったのだ。主演はMr.Boo!のサミュエル・ホイで、ハズレもなかろうと踏んでいたのだ。

 ネットもねぇ、スマホもねぇ、口コミ全然届かねぇ! そんな吉幾三の80年代。僕らは意気揚々と映画館に乗り込んだ。そんなぶらり散歩気分で映画を観れば、地獄に落ちる未来があった。映画館に入って秒で気づく。映画館の異変に気づく。僕ら以外にお客がいない。いつもはあんなに賑やかなのに……静かな映画館は異様な光景であった。異様ではあるのだけれど、心の中では、今日は貸し切り! そんな気持ちが勝っていた。ゾンビ映画なら、俺たちはチャラくて最初に食われるやつである(汗)

 大画面に映されるテレビCMさえもが新鮮だった。大画面に慣れてない。昭和はそんな時代であった。僕らは最高の席を陣取って皇帝密使を満喫し、休憩時間にお菓子とジュースを買い込んだ。そして、ビップ席から同時上映を待っていた。香港映画でアゲアゲな、僕らは次の映画に期待を寄せる。きっと、B級香港映画に違いない。根拠ない予測がそこにはあった。

 程なくして放映時間が訪れる。映画館の中の照明がゆっくりと落とされた。ふたりだけの映画館。それが闇に包まれる。光を放つのは非常灯だけになった。間を置かずして白いスクリーンに映写機の光が当たると、一瞬で僕らは地獄に落とされた。目を見張るほどの大画面。そこに映し出される巨大な文字。

───死霊のはらわた(映倫)

 であったから……ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!

死霊のはらわた……それは、日本を恐怖のどん底に突き落としたスプラッター。この映画の題名は、薄っすらと口コミで知っていた。噂だけは耳にしていた。脳内で、薄い情報だけが走馬灯のように駆け巡る。知ってる、これ噓でしょ? それがこれから始まるのだ。誰もいない暗闇で、僕らは小声で言葉を交わす。

「おい、帰ろっか? これヤバイ……」

 隣から、漆黒の闇から声がする。

「金払ってるからな……ヤバイけど……」

 そうなんだよ……問題は金なんだわ。金が惜しくて出られない。

「やってみるか?」

「やってみるさ!」

 僕はシャアのものまね台詞で気合を入れると、隣から「アムロ、いきまーす!」の声が聞こえ、俺たちは無口になった……。

 貧乏高校生にとって、大枚を払った映画である。僕らは腹を決めて映画に挑む。〝死霊のはらわた〟だけに腹を括った。この映画が、僕にとって最初で最後のスプラッターになったのは言うまでもない。そこから先は「ようこそ地獄へ!」なのである。

 映画を観終え、エンドロールが終わっても、僕らはしばらく立てなかった。どれほどかと言えば、二度目の皇帝密使の半分まで僕らは観ていた。僕らは死霊を忘れるのに必死であった。このまま帰ったら、夜中にトイレに行けやしない……。

 息も絶え絶え映画館を抜け出すと、外は夕暮れ時の商店街。僕らは、いつもの商店街の賑やかさと、いつもの人込みに安堵した。自転車を押しながら、僕は同級生に声をかけた。

「飯食って帰る?」

「今日は、やめとくわ……」

 元気のない声であった。

「だよなぁ……」

 世界最新スプラッターの後である。血みどろに耐性なき昭和の人なら誰だってそうなる。商店街を抜けた暗がりが、同級生との分かれ道。その別れ際、彼の言葉が今でも心に残っている。

「オレ……しばらく肉は食えないな……」

 今日もサヨリは元気です(笑)

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