ドンドン餃子とは何か?

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ぐるめ・試食

───ドンドン餃子とは沼である。

高校生を惹きつけて離さない底なしの沼。

その入り口は口コミを巧みに使って忍び寄る。静かに、さりげなく、それでいて華やかに。その話が僕の元へ舞い降りたのは1985年の事である。阪神タイガース優勝に西日本が揺れた年。ガンダムはカミーユでスケバン刑事は南野陽子の頃である。数学と世界史の授業の狭間で僕は友人に告られた。

───餃子、食べに行かない?。

「は?」である。

今は令和では無い、昭和の高校生の話である。俺を誰だと思っていやがる?、武士は食わねど高楊枝、無い袖は振れない。つまり、悪事を働かなければ外食のハードルは高いのだ。「は?」の以外の返事しか見つからない。友人にとってその反応は想定の範囲内だったのだろう。友人の手のひらにはタダ券の束。それを遊戯王カードの如く机の上にズラリと並べてほくそ笑む。

───ブツはある。

お前、時代劇に出て来る越後屋か?、悪い顔だな。

「これが餃子でラーメン券は3枚でタダ」

条件反射でブツを確認、確かに餃子無料の文字がある。無料の花言葉はアナタが好き。瞬時に「は?」は「行く」に寝返った。良いんだよ若いから。若さってなんだ?、その問いに宇宙刑事はこう言った。振り向かない事さと。だから寝返る事など恥じゃ無い、こんな良い話なんて滅多に出逢えるものじゃない。共に笑って未来に向かって歩こうよ。じゃ、放課後な(笑)。

首を長くしながら放課後を待った。

───えー、大丈夫か?。

伏石のマルナカの手前にある小汚い店。これ、酔っぱらいのオッサン行きつけの立ち飲み酒屋というやつじゃやね?、ドンドンって何だよ?。そんな感じ。友人に押し込まれるように入店すると、そこに広がる今日から俺は!!。リーゼント、パンチパーマ、紫のマスク…学ラン軍団チャハーン喰ってる。こえーよぉ〜、あの菊りん、こっちめっちゃ見てる…無料と危険は隣り合わせ。虹の橋が薄っすら見える。必ず生きて帰ると心に誓った。

───こっち、こっち。

何故、チャハーン軍団と差し向かえ?。友人が手を振るカウンターの隅っこで僕は炒飯と餃子を注文した。炒飯は自腹だけれど餃子はタダである。入店前に友人からの注意事項がひとつあった。「絶対、大は頼むなよ、食いきれないから」それに従い普通のを頼む。この店構え、この雰囲気、餃子は無料、多分味もそこそこ…大きな期待はすべきじゃ無い。ドン、ドン、ドン!。ぶっきらぼうに置かれた炒飯と餃子とスープ。それでドンドン餃子なのかと子供心に妙に納得。それにしても女子供は寄せ付けない殺伐とした雰囲気である。帰りに身代金でも要求されそうで、今日もサヨリは元気です。

───これは罪深い…。

幼き僕の舌は肥えてない。中華慣れもしていない、いつも若さで飢えていた。その全てが極上の調味料となり大輪の花を咲かせる。それは無知が故の特権。うーーーーん!!!、中華一番!、マオが見える!。濃いめの味付けに舌が痺れる、米で味わう国士無双、具で味わう大三元、漢飯ここにあり。中華スープが実に美味、この夏はこのスープで泳ぎたい。普通にナンボでも喰える。炒飯だってオヤツになれる、そう僕の胃袋が呟いた。これで400円ならお安いものだと正直思う。僕のご満悦の表情に菊りんがニヤリと笑った。この店は怖くない。

それはドン餃沼に足を突っ込んだ瞬間であった。

───ごちそうさま。

支払い時には無料券と炒飯代。お釣りと共に返される餃子無料券。さっき渡した券なのに、餃子は永久機関なの?。ズズっと僕の背中を友人が押す。軽く混乱中ですが、何か?。グイグイと押し出されるように店を出る。次はラーメンが食べてみたいなと思いながら。

───今日からお前も餃子は無料、また行こな!!。

笑って別れた高3の春。

あの日から行ったり来たりを繰り返す財布の中の無料券。友人、上司、後輩たちとすべからく通った大陸どんどんチェーン店、ドンドン餃子は今はない。

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