───あれは想定外の出来事でした。
昨日は穏やかな土曜日であった。小春日和という言葉そのものであった。追肥は今日しかあり得ない。そう思った僕は本能で畑に出向き苦戦した。
───赤詰草の種まきは間違いである。
種をまく行為では無く、まいた場所が決定的に悪いのだ。追肥を始めて秒で絶句。悪かった、悪かった、自分が馬鹿なの忘れてた。生かした畝間に首が絞まる。
───手が届かない。
クリムソンクローバーの花言葉は胸に火を灯すだけれど、お尻に火がついた気分である。
控えめに言ってヤバいっす。
80センチ先の向こう側。君へどころかマルチの穴にも届かない。枯れた僕でも無理をすれば何とか届く。届くけれど届かない。そんな絶妙な間合いであった。そう、頑張れば何とかなる距離。
けれども苗の数が多すぎた。
同じアイドルでもAKBならまぁやれる。総勢48本なら不可能な数じゃ無い。なのに目の前の現実は残酷だ。
じゅんこ、ももえ、まさこという名の玉ねぎたちは300を越える。昭和のアイドルは伊達じゃない。「そんな時のスコップですよ」とチャレンジしてはみたものの、それはそれで何かと面倒。
───スコップ案は捨てて続行である。
中腰からの前屈姿勢が老腰に堪える。例えるならエイリアンの脱出ボタン。押せるか押せないかの位置のマルチ穴。金もいらなきゃ、女もいらぬ~ぅ。私しゃも少し背が欲しい。
───翼をください。
徐々に腰が重くなり、背筋さえもが怠さを覚え、時間と共にペースが下がる。切なさと、愛しさと、心強さは冬の青空に吹き飛んで、今日もサヨリは元気です。
───こりゃたまらん。
脳裏を掠めたスポットくん。それは、立ったままマルチの穴や根元に粒剤散布可能なひみつ道具。今こそ欲しい場面である。彼さえいれば、こんな作業など屁のカッパなのだけれどコスパが悪い。そんな予算は何処にも無い。
───あと少し、もう少し。
ぼちぼち、とろとろ、よっこらしょ。腰がギックらないよう、細心の注意を払いながらの追肥作業に草抜きも添えて。
人間とは不思議なもので、限界を突破すると急に悟りを開く生き物である。雑草が生えないと嘆いた夏と、マルチの雑草に愚痴る冬。
だが、それが良い。
痛みを抜けた向こう側、腰の感覚がおかしくなった頃、ようやく最後の1本に差し掛かる。何とも言えぬ達成感。今年の大仕事はこれで終わり。メリークリスマス、良いお年を。そんな気分でいると、師匠の軽トラが通り過ぎ、そしてバックして戻って来た。
───荷台に転がるスポットくん。
借りたいけれど、理由が理由だから借りられない。だってそうでしょう?、「畝間にクリムソンクローバーの種を撒いたから歩けなくなった」そんなの口が裂けても言えやしない。
───サヨちゃん、何やっとん?。
これから始まる芋掘り合戦10分前の出来事である。
コメント
これは、これは‥。無理な姿勢での作業。その後、腰は大丈夫ですか?。畑仕事をしていると色々な道具が欲しくなりますよね。お高いけど‥。それにしても雉虎さん、根っからお優しい方のようですね。。私も以前、(畝間ではないけど)、畑のクリムソンクローバーが作業の邪魔になった事がありました。背丈も伸びていたけど、分け入って踏みつけて作業しました。食用目的で育ててないし、白詰草ほど踏みつけに強くはないけど基本的に丈夫だし。全部、踏むわけでは無いから、まぁ、いいやって。灯された火を消す人かも(笑)。
こんばんは(笑)。腰は何とか無事でした。赤詰草って完成形が分からないので、おっかなびっくりしています。まだまだ幼いですから、踏みつけるのが勿体ない気がして怖いんですよねー。優しいというよりケチなのでしょう(汗)。