6月のビニールハウスで一汗流せば気分爽快

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雑記・覚書き
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───手伝ってくれ!、これやる。

そう言って、師匠が僕の手のひらに乗せたちびっ子ガメラ。ペットボトルのキャップよりもひと廻りらい大きめサイズの子亀であった。昭和かよ?。こんなんじゃ、今どき幼稚園児すら動かせやしない。ほらそこの道路にだってサッカーボールくらいのガメラがなんぼでも這っているのだ。ポケットに僕は黙って子亀を入れた。

───もう、チョイ悪おやじに捕まりなさんなよん。

手を振る師匠に分からぬように子亀にはため池にお引き取り願う。キミをうちで飼う事は出来ない。持って帰っても怒られるだけだ。事務所じゃサヨリに襲われるだろう。ではお元気で(笑)。池の中へ子亀が消えるのを確認してから、僕はテテテと師匠の家へと歩いて行った。自家菜園を初めて間もない2022年6月初頭のお話で、今日もサヨリは元気です。

僕を動かしたのは好奇心であった。ビニールハウスとは何か?。その答えがお手伝いの向こう側にはあったから。そして、2回に渡る冬を越えたミニトマトもその中に。ちょっとこのトマト凄くね?。そんなのワクワクしない方がどうかしている。本日もご安全に。

───サヨちゃんも来たんか?。

あら久しぶり、でも何で?。

ハウスの中は敬老会のようであった。村の長老らが僕においでおいでしてはった。彼らにとって僕はまだまだ若造である。つまり、楽勝か?。初めて入ったハウスの中はポカポカで快適であった。数分後、このポカポカが牙を剝くとも知らずに物珍しそうに初めてのハウスの天井を仰いで回った。でっけぇーなー。カッケーなぁ〜。

で、何やるの?。

───誰にでも出来る簡単なお仕事です。

知ってる、それ、嘘でしょ?。誰にでも出来るから始まる簡単なフレーズ。それは、「悪いようにはしない」と同意語。これまで幾度もそれに騙されてきたのだ。僕だって馬鹿じゃない。その手には乗らない。

で、何やるの?。

───セルトレイの運び屋だった。

セルトレイとは、小さいくさび形のポットが連結して並んでいる育苗パネルの事である。じゅんこ、ももえ、まさこ。僕がタマネギアイドルの種を植え付けた黒いアレ。でもこのデカさ、業務用か?。田植え機に設置する業務用トレイであった。トレイの中で青々とした苗の正体は稲である。日本の心、米の苗。

で、何やんの?。

トレイはハウスの中で幾段にも積み重ねられている。軽トラにでも積み込むつもりか?。それとも2トン車の方かいな?。その予測は見事に外れる。ハウスの地面にトレイを並べてゆくのだと言う。言うは易し小野ヤスシ。広い!。スター寝起きドッキリくらい驚いた。重いトレイを並べるのは地面である。高低差があり過ぎる、ひっくり返せば首が飛ぶ、下手すりゃ腰やる案件である。とは言え、長老たちの御前である。ここは黙ってやるっきゃない。一輪車にトレイを重ねてハウスの奥へとせっせと運んだ。その時僕は、腰に気を取られ過ぎていた。もっと大切ななにかを見逃していたのだ。

───ハウスの高温が徐々に己の首を絞める事を。

1分動動けばポカポカも地獄。全身から吹き出す汗が滝。らっきょのような大粒の汗がウィンクの愛くらい止まらない。オレらにドラマ始まっていた。3分後には息が上がり、心臓のカラータイマー鳴り響く。今ならウルトラマンの苦悩が少しくらい理解できる。ついさっきまで威勢が良かった長老たちからの声も消えた。それは、ハウスの中で心がひとつになった瞬間でもある。

───ワシらは生きて必ず帰るんじゃ!。

そこからは先はタイムトライアル。時間との勝負である。一刻も早くハウスから抜け出るべく最小限の動きで駒を進めた。それだけを考え、それだけを実行した。作業開始から15分経過。あとひと山を運べばそれで終わる。山頂まであと一歩。いよいよゴールが見えて来た。これが終われば灼熱地獄から解放される。胸を張ってハウスの外へ出て行ける。たったの15分で体の中の水分が全部抜けた気にもなる。金を払ってサウナに入ったと思えば、これはこれで良かったのだろう。そして最後の一枚を並べ終えた。お疲れちゃん、ではさようなら・・・。農家は大変である。さぁ、外に出て水分補給をしないとな。

───サヨちゃん、まだだよ。

え?。

大変である。大きく変わると書いて大変であった。まだ続きがあると言う。並べたトレイの上に水をまいて、その上にピーンと遮光シートを張るのだとか。わずか5分、されど5分。聞いてないよ。梯子を外され泣きを入れた。一瞬で良いから外に出してよ。あんなに入ってみたかったビニールハウスから1秒でも早く出たかった。ブハァーっとハウスから飛び出ると、鼻先に突きつけられたポカリスエットがありがてぇー。胃袋がポカリ吸う。水が抜けた体にこのうまさは悪魔的で、サウナ上がりの数段上で、極上の爽快感がそこにはあった。数日後、同じ作業をしたのだけれどあの爽快感はまるでない。体が暑さに慣れてしまった。人体の不思議である。

───この夏もしっかり汗を流そう。

コメント

  1. 沢山の労力と汗の果てに、美味しいお米があるのですねぇ。私の好きな食べ物は白飯。おにぎりなら海苔も具もいらない。塩むすびがいい‥というご飯好きです。お米の品種も色々あるので食べ比べをするのも好きで、最近のお気に入りは「にこまる」と「雪若丸」。香川はどんな美味しいお米を作っているのかな?と気になります(笑)。

    • こちらでは「こしひかり」「ヒノヒカリ」が多いようです。ブランドとしては「おいでまい」と言ったところですが、県産品なら「こしひかり」の方がメジャーだと思います。農家の人と話をすると腰痛の話題が頻繁に出ますがこの作業だけでも「腰やるわ」と納得。飽食の時代かも知れませんが野菜もお米も残さず食べて欲しいものです。

      • おいでまい、こちらでも売っていたら買ってみます(笑)。母方の実家は兼業農家でお米を作っていました。遊びに行く=手伝いに行く‥でした。農家さん達のご苦労を経験したら、雉虎さんの仰る通り決して残せないです。全ての農家さん達に感謝ですね。

        • ほんとにね。一粒残さず食べないとです。

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