───兄やん、牛糞いる?。
畑に行くと中学後輩のジロちゃんから声を掛けられる。牛糞の響きに僕の耳がピクピクと動く。何やら一袋をくれるのだと言う。ジロちゃんは、過去記事で雑草をくれた後輩と言えば想い出す方もいるだろう。
───兄やんとは兄さんの事である。
田舎ですもの、近所の年上の男性は、○○の兄やん、○○に兄ちゃん、若しくは下の名前+さんで呼ばれている。勿論、僕もそのひとり。
───柿の木が折れた…。
先日、柿の木が折れた後始末の手伝いを頼まれたので快諾した。雑草を貰ったお返しに手伝ったつもりが、柿の木伐採のお返しからの牛糞だった。何はともあれ土つくりのタイミングでの牛糞は助かるので嬉しい。
───さっき袋に詰めて来た。
今、何て仰った?。
袋に詰めたって?、お前んち牛でも飼ってたっけ?。牛を飼ってるのなら、こりゃ幸い。僕にとって、今後調子の良い話である。そうなら牛糞には困らない。だったら来年のトウモロコシは、さぞかし大きく育つだろう。
───いや、トラックで持って来て庭にダンプして貰った。
嗚呼、その手を使ったのか。高松市内でも酪農農家に頼めば格安で牛糞が手に入る。そんな噂を訊いたことがあった。僕にとっては都市伝説なのだけれど、目の前のクソの山に「へぇ、あるんだ実際」という言葉しか出て来ない。そうなると気になるのは嫌らしい話、価格である。
───2トン車満杯で三千円だよ。
安いけどそれは無理。うちの畑じゃ多すぎる。さすがはプロである、農家のプロ。種も、苗も、追肥も、堆肥も、何を訊いてもスケールがデカ過ぎる。軽い気持ちで冗談でも言うおうものなら、何でもかんでもトン単位で持って来そうな勢いである。
───兄やん、牛糞はあげるけど袋は返してね。
お、おう。
そう言って、小さな畑の来年ゾーンに牛糞を撒き丹念に耕した。余った牛糞は秋に植える玉葱用にストックした。それは、この秋デビュー予定のアイドル、じゅんこ、ももえ、まさこの為の肥料となる。
彼女らの種を植えるのは9月の半ば。苗を植え付けるのはサツマイモを掘った跡地。意図する事なく進む準備。菜園ネットワークが広がるにつれ、作業は勝手にオートメーション。サヨリは今日も元気です。
───なんだかもう、楽ぅ〜!!。
もうね、僕は一生涯、牛糞に困る事などないのだろうな。それは、ウンチに困らない人生の幕開けで、それと同時に家庭菜園から手が引けぬという祝福と呪い。いつでも欲しいものが手に入る。物資が外堀から埋められてゆく感覚。
───僕の畑が化ける予感。
独りだったら、果たしてここまで来れただろうか?。否、無理だったに違いない。ど素人が畑に手を出す愚行なのだ。縦横斜めの繋がりが無ければこうはいかない。
ありがたい事である。
コメント
全てにおいて、素敵な環境ですね。モノも、労力も、優しさも、牛糞までもが、巡回してくる‥。ほんと、雉虎さんも含めて皆、親切で義理堅いから、この輪はエンドレス。畑の女神様とのマリッジリングの輪かな?。じゃない方の祝福のリング、人との縁は素晴らしいですね。
ひとり畑を耕していた頃とは雲泥の差で、最初は挨拶程度から始まって、失敗しそうな感じになると頂きものが多くなって、カタチになって来たら情報とか物資を貰って…。まだまだプロ相手に作物のお返しは失礼にあたると思っていますが、来年は「これ食べてみ?」と言えるようになりたいです。それまでは、牛のウンコをもらい続けます(汗)。