───こんなの立ち上がったらゴジラでも勝ち目ないな、ドデカいもの。
五つの峰が天を刺す。その姿を五本の剣に見立て、ついた名前が五剣山。
五剣山は、高松市牟礼町に位置し、四国巡礼八十八箇所の八栗寺(第八十五番札所)がある事から、地元では八栗山という名前で親しまれている。花崗岩のダイヤモンドと名高い庵治石の丁場(採掘場)としても有名な霊山である。
その五剣山には巨人が眠っているという伝説がある。否、あった筈だった。
巨人が眠る五剣山
───さてみなさん。昔々、巨人が眠って五剣山になったと言われる伝説がありました。見て見て、あれが口で、あの高いのが鼻に見えますでしょうか?。ね、人の顔に見えるでしょう?。ねぇ、凄いでしょう。小学生の皆さんには、ダイダラボッチの方が分かり易いでしょうか?。
遠足で走るバスの中。バスガイドの話術が優秀で、秀悦で、名口調で浜村淳。グイグイと引き込まれる話の中のひとつが五剣山の巨人伝説だった。
そう、あの瞬間から僕の目には五剣山が巨人にしか見えなくなったんだ。
───今日の五剣山もそうだった。
進撃の巨人はムーブメントを起こしたし、八栗さんの巨人伝説もメジャーにしなければ。そう思い立ち記事を書き始める。けれど、遠い昭和の枯れた記憶だけでは怪しいものだ。ネットで情報をかき集めてから話をまとめる作戦に出た。
───そいつは最高の作戦だなぁ〜、不可能って事を除いてな。
真っ先に表示されたウィキペディアに目を通す。巨人の「巨」の字も出てこない。更に検索結果のリサーチを続ける。「五剣山て顔に見えるよね」そんな記事は見られたけれど、それ以外に決定打となる情報は得られなかった。もうね、ダイダラボッチの影すら見えない。
───違和感というより嫌な予感。
五剣山の巨人伝説て、バスガイドさんの持ちネタだ?。つまり、ガセ?。
その場を盛り上げるのがバスガイドの使命。実際、盛り上がるバスの中はなんば花月のようだった。お上品な笑いを振りまくお姉さんの独壇場。さしずめ乗り合いの上沼恵美子。
プロの話術に魅了された僕らに車酔いの心配など不要だった。バス席の前でスタンバッテいるビニール袋の出番も無かった。暇なはずのバス移動を楽しませるだけ楽しませて飽きさせない。優秀なバスガイドである。さぞかし先生達は楽だった事だろう。
───優秀さゆえの罪深さ。
八栗寺へ行くたびに、山田家でうどんを食べるたびに、五剣山を見るたびに、ムクっと立ち上がる巨人のイメージ。当時、どれだけの小学生が彼女の都市伝説を心の刻み、小さな心臓をゆらした事だろう。そんな遠い記憶が残るアナタ。
───そりゃもう、今日からお友達です。
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