僕のポメラは、黄泉と現世の特異点。友人からの力をもらい、昆虫界最強と呼ばれるオニヤンマの気分で目覚めて青ざめた。スマホがねぇ。もうね、上機嫌で飲み会行って、目覚めたら道路で寝ていた感覚に、今日もサヨリは元気です。
───にゃんで?。
速攻で辿った昨夜の記憶。覚えてる、18時にはスマホあった。じいじ社長からの煽り電話があったから。煽りだもの、記憶だって鮮明だ。その後からの記憶が無い。夜勤が終わったのは22時。それからスーパーに寄って、サヨリのご飯で事務所に寄った。可能性があるとすれば会社と事務所。当然探す。どこにも無い。スーパーにも行った。やっぱり無い。これはアカンやつである。スーパーストロングアカンやつに、僕は半日のロスタイムを覚悟した。
───ドコモで機種変である。
行きたく無いけど行くっきゃない。根回しするにもスマホが無い。だから、今日の全てをブッチしてドコモへ駆け込んだ。新たなスマホで仕切り直そう。銭も謝罪も全てはそこから。大丈夫、大丈夫。友情パワーで切り抜ける。火事場のクソ力を見せてやる。これが分かるアナタ、そりゃ、もう正義超人です(笑)。
ざっくりと仕事を済ませた11時半。駆け込みドコモでもたついた。いつもそう、いつだってそう。体温測定器が近いだの遠いだのと注文をつける。焦りが苛立ちへ昇華する。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
「スマホが無くなりました」
お姉さんの顔から笑顔が消えた。心配してくれるの?、いい人だ。僕よりも深刻な顔に、こっちの方まで不安になる。ドコモショップの隅っこの席に通されて、先ず訊かれたのが電話番号であった。そんなの知らね。免許証を出すと、後からで結構ですと免許を裏返して突っ返された。近くのお得意さんとこ行ってこようか?。僕の電話番号教えてもらいに……。
幸いドコモからの請求書か何かを持っていたからそれを渡す。希望へのバトンであった。その次がグーグル入社試験くらいの超難題である。
───ネットワーク暗証番号を頂けますか?。
何?、暗証番号だと。俺を誰だと思っていやがる。ジジイにそれを聞くのは野暮ってものだ。そんなの覚えている方がどうかしている。初めて会ったばっかなのに、お姉さんと僕との間でアイコンタクトが成立する。『ですよねぇ~』その視線が痛い。当てずっぽで嫁の誕生日を告げると……通ってしまう。そうやって、奇跡の連続が幕を開けた。
「保険が適応されるかお調べしますね。その前にスマホの場所をお探ししますね」
───知ってる、それ、嘘でしょ?。
だだっ広いドコモショップにポツンと独り。ドコモのお客さんこんなんだっけ?。昨日の出来事からの今日である。異次元とか異世界に迷い込んだ気分で待つと、含み笑いでお姉さんが戻ってきた。手渡された用紙に地図が印刷されている。地図に描かれた円の中心は、他でもなくサヨリの寝ぐら。そう、キジとら事務所。お姉さんにお礼を告げて事務所へ向かう。その間、僅か15分の出来事である。
事務所を見渡してもスマホが見えない。今朝と同じデジャブが始まった。
「何やってんの?」
ドタバタし過ぎて大家さんがやって来た。飛んで火に入るナイスであった。
「僕のスマホ鳴らして」
「お、おう」
私はここに居るとばかりにスマホが鳴った。でも見えない。何なん?、嫌がらせですか?、かくれんぼですか?、僕のスマホは透明ですか?。音を頼りに捜索すると、リクライニングチェアの肘掛けの脇にスマホがあった。スマホは天に向かって真っ直ぐに立っていた。大谷翔平とうどん食べたくらいの喜びあった。
今回の経験から得た教訓は、『スマホを無くしたらドコモ行け!』である(汗)。
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