たかだか標高200メートルまでの登り坂。これくらいならイケるっしょ(笑)20分も歩けば、そこは八栗寺───が、遠い。
今日の日差しは柔らかく、ぽかぽか陽気に誘われて、気分転換に歩く山道が心地よい。そのはずだった。でも、バイク暮らしが裏目に出た。もう、引き返せない…。
汗は噴き出し息も上がる。たかだか5分でこの醜態である。小説に使うはずの脳味噌が、すべて呼吸に取られてしまう。ぜいぜいと、ロボ超人みたいな呼吸音に、今日もサヨリは元気だぜ(笑)
誰かが言った。歩くとアイディアが浮かぶという。そんな事もあるという。執筆の行き詰まっている今である。藁をもつかむ思いでやって来た五剣山である。なのに今は無心である。思考が働く状態ではない。無我の境地とはこの事か?
テクテクと5分ほど坂道を登る。無心なだけに五感だけが研ぎ澄まされる。タタタタ…背後から忍び寄る足音が徐々に間合いを詰めて来る。そろそろ抜かれる頃合いになった。
お前、小野田坂道か?
タタタタ…。その音が、めちゃめちゃよく回っている。ケイデンスの速さが尋常とは思えない。もの凄く速いのに、足音から推測される質量が軽い。小柄な人物像が頭に浮かぶ。もう、タタタタ…は真後ろに。
捕まった! 足音が横に並んだと思うと、小さな影がそよ風のように吹き抜けた───またか…。小さなおばあちゃんがそよ風の主である。
八栗寺への登り坂は、イノシシと小さな韋駄天との多発地帯。毎日、お寺参りに登るのだろう。お年寄りの足がびっくりするほど速いのだ。いつもそう、いつだってそう。ここを登ると誰かに抜かれる。控えめに言っても、自分よりも遥か年上の人々に。
その後は、小さな背中が小さく消えるのを見てるだけ。そして毎回、同じことを思ってしまう。
───凄んげーな(汗)
二十分ほどかけ、ようやく八栗寺に入る。境内を見渡しても小さな背中は何処にもなかった。タイムの差は5分ほど。きっともう、帰り道なのだろう。僕はしばらく休んで帰ろ。こんなのだったら、タオル持ってくればよかったな。ベトベトだ(汗)
鳥居の横。いつものベンチに腰掛けて、膝の上でポメラを開く。お弁当は? 今日の目的はそれじゃない! ポメラに思いつきを打ち殴る。時折、通り過ぎるお遍路さんを眺めながら、ただそれだけを繰り返す。そうしていると新たなキャラが生まれてしまった。
───こいつは困った(汗)
新キャラは、話の複雑さを増すことを意味する。でも、それが誰だか理解できれば、それを理解出来る読者かがいれば。そう思っただけでゾクゾクした。
それだけでも山を登った収穫があった。パワースポットの有り難い御利益だ。帰り道、下り坂の足取りが軽く感じた。きっと明日は筋肉痛だな…。
考え事に八栗さん、オススメです(笑)




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