今年のナスは出来がいい

　雨が降っても畑に出向く。争い、犯罪、悲劇。僕の楽園にその文字はない。そのはずだった。けれど、突然の悲劇が牙を剥むく。こころ折れるわぁ〜、普通に泣く光景だった。こりゃ、何とかせねばなるまいな。だれにも言えない秘密の任務を僕は遂行中なのだ。だから、空から何が降ろうとも、畑に行かない日などない。とは言え、ため池に雨の華が咲いている。雷電の出撃は控えよう。雨に濡れては大変だ。雨でも畑が見えるようにロッカーの扉は開けとくね（笑）。

「一号、二号、三号、すべてヨシ！　水やり不要！　これにて、本日の任務終了！」

　これで帰るのも忍びない。やった気が全然しない。だから、他の野菜も見て回る。これが僕の日課である。確認だけの作業だとて、今はやっぱり気が抜けなくて、今日もサヨリは元気です（笑）。

　モモタロさん、そろそろかいな？

　大玉トマトの赤みが増した。その名もホーム桃太郎。大玉トマトは難易度高めで、コイツもどうやら割れるらしい。今のところは大丈夫。今なら割れずに食べられそう。もう、初めての収穫が嬉しいじゃん。

　ウホウホ気分できゅうりを一本。きゅうりは無限ループに突入している。畑に来るたびに何本か収穫していた。明日も何本か採れるだろう。

　ついでピーマンも三個採った。品種名は忘れたけれど、ジャンボなんちゃらという品種である。サイズ的に収穫には一足早い。けれど、最初のうちはこれで十分。今は、茎へパワーを回す。きゅうりもピーマンもこれから収穫ラッシュに入るであろう。

　収穫済みのトウモロコシ。その茎の間では、シャリっ娘（小玉スイカ）が蔓を伸ばす。大玉スイカは本調子のようである。実は一個しかついていないけれど、ベジータくらい樹勢が強い。グングンと我が道を突っ走っている。

　樹勢と言えばナスである。

　今年は、「四方展開仕立て」というのを目論んでいたのだけれど、そのタイミングで多忙になった。多忙にかまけて畑をさぼり、仕立てのタイミングを無くしたナスである。つまり、放任からの更新剪定へとプランを変えた。こやつが元気はつらつで、二本の株とも仁王立ち。天に向かってギュイーンな感じ。だから、枝に支柱がない。でも、こいつらは立っている。生命力を感じる枝っぷりにほくそ笑む。

　そんなナスに実がなった。初収穫の三本を採って持ち帰る。今日の収穫はちょっぴりである。だから、お裾分けまでには至らない。持って帰って自分で食べよう。すまないねぇ、みんな（汗）。だがしかし、時刻は午後の七時を回った。今夜の食事でナスを食べるのは無理である。だから明日、何かに調理して食べよと決めた。持ち帰った野菜達を冷やすべく、僕が冷蔵庫を開くとサヨリが飛んで僕の足下にすり寄った。

「賢いねぇ、キミは。一杯、やってく？」

　冷たいミルクを差し出すと、サヨリは待ってましたとばかりに飲み干した。いつ見ても愛い奴である。可愛い奴には、頭を撫で撫でしてやらないとな。小さな頭を撫でながら思い出す。せっかくの得物である。写真に撮影しないとデス。ナスを手に取りギョッとした。だってそうでしょう？、ナスの皮が指に吸い付く。手触りが極上なのだ。こんなナスとは出会えない。保健室の先生くらい滅多に会えないナスである。畑にこの手を染めるまで、そんな事など思いもしなかった。野菜づくりで得た世界を救えない特殊能力とでも言うべきか。にしても、今年のナスは出来がいい（笑）。

　このナス、何にしてやろうかね？

　これだけ煽っておいて何なのだけれど、僕はナスが苦手であった。秋茄子なんて嫁さんが喰ってくれ。だってそうでしょう？、この色合いがいけ好かない。ナスの紫色に拒否反応があったのだ。美味いと感じたのは数年前から。だから調理法をあまり知らない。クッキングパパでも読み直そうか？　それとも海原雄山に教えを請うか？

　フフフフフ……みーつけた。

　僕は、行きつけの激安スーパーで良いのを見つけた。丸美屋の麻婆豆腐の素（辛口）である。麻婆茄子の素ではないけれど、麻婆である事には変わらない。値段もお手頃で二食分も入っている。これも何かの縁であろう。やってみない手を僕は知らない。取りあえず確保。丸美屋の麻婆豆腐の素を買い、明日の朝昼晩、いずれかのタイミングで調理してみようと思う。

　冷蔵庫の中に豆腐がある。だから、ナスと両方入れるかも。でもたぶん、きっと、ぜったい使うのだろう（笑）。