───愛猫を 撫でて感じる 夏の風。
愛猫サヨリの換毛期が始まった。冬毛から夏毛の衣替え、その準備の産物はケレセランパサラン。ふわふわと体毛が宙を舞う。本物のケセランパサランは妖力を持つと言われ、それを見つけると幸運になれると言われる謎の生物だけれど───偽物はむしろ逆。
サヨリのケセランは、すぐに対処しないと不幸を招く。だってそうでしょう?、ふわふわと風に乗ったケセランとパサランは外に向かってランデブー。それが集まり毛玉となって、近所のあの人の目に留まる。
───この毛、お宅の猫ですよね、困るんですよ、実際。
柔らかな腰つき。そこから繰り出されるねっとりとしたご指摘。言い返す言葉も無く平謝りでその場を凌ぐ。
───あれは地獄です、生き地獄です。
世界的な猫ブームと言えども、その考えはお門違い。猫を愛でる人もいれば、猫を敵視する人も居る。それは当然で人間だもの。ご近隣様に迷惑を掛けぬように、サヨリさんが後ろ指をさされぬように。先手必勝、クシを手に持ちブラッシングを開始する。ついでにノミのチェックもしよう。
───フレッシュ、フレッシュ、フレッシュ!。
これ、やらないと夏の扉が開かない。
4月だからごっそりと抜けないけれど、チビチビ抜ける今頃からが丁度良い。あと二週間もすれば、そりゃもう、禿げるの?、ってくらい毛が抜けるから。
お互いに本番前の予行演習なのである。
ブラッシングの後は一斉清掃
ブラッシングが終われば事務所の掃除。これを欠かすと意味が無い。ブラッシング以上に見えない体毛が抜け落ちているのだ。(写真は2017年の抜け毛)
───レレレのレ〜♪。
ほうきで掃いたら雑巾の出番。事務所全体を水で拭き、乾いた雑巾で拭き上げる。掃除機じゃラチが開かない。綺麗に見えても猫の毛でまみれている。その証拠に、雑巾で水拭きすると細かい産毛が山ほど取れる。それを体感するだけで、猫とカーペットとの相性の悪さが理解出来る。
これから始まる夏の準備、サヨリにとっても災難である。
───くる、きっとくる!。
聖子ちゃんのヒット曲は夏の扉だけれど、愛猫の換毛期は夏の呪い。猫は嫌な体験を忘れない。恨みは決して忘れない。手に持つクシにサヨリはグっと身構える。君に届くと死ぬ方の貞子に見えただろう。口が半分開いている。僕からの手間暇かけた呪いのサービスに嫌悪の表情が隠せない───邪悪である。
頭を撫でながら優しくクシをとおす。身構えていたサヨリもゴロゴロと喉を鳴らす───チョロいな。
頭は好き、顎も好き、背中もいい感じ、尻尾はヤメロ!───ボクの手に触るんじゃない!。仕上げは本丸のお腹の毛である。
お腹の毛が冒頭のケセランパサランの正体。ふわふわで、柔らかで、極細の毛が宙を舞う。それを可能な限りブラッシング。一度に出来ないからこそ、毎日のケアが欠かせない。
───短時間でササっと処理。
それが腕の見せどころだけれど、やっこさんもバカじゃない。指をくわえて見ているタマでもない。昨日の友は今日の敵。全力で抵抗を企てる。
───シャーっ!。
下手すりゃ赤い彗星のお出ましだ。
華麗に猫パンチと猫キックを避けてクシをとおす。わずか5分の攻防戦。それを終えるとキレイなサヨリさんが出来上がる。恨めしそうな眼が痛い。言いたい事は分かってる、嫌だったのも分かってる。それでもアナタの為だから。
───ちゅーるにすっか?、ミルクにすっか?。
ご機嫌斜めの特効薬で仲直り。いつもそう、毎年そう。痛くない、怖くない、ブラッシングの後はモグモグタイム。それをサヨリが認識するまで、夏の攻防戦は毎晩続く。
───今夜のちゅーるはどれにする?。
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