───僕の12月は36日まであった。
我が家のクリスマスの主役は、サンタでも無くキリンが逆立ちしたピアスでも無かった。不二家のデコレーションケーキありきである。二段のやつ。
───そう、12月を36日まで引き延ばす白い悪魔。
昭和のガキ向けデコレーションは賑やかだ。
お菓子の家と砂糖のサンタ。プラスチック製のもみの木とヒイラギの葉。さらに金色に輝くクリスマスベルが彩りを添える。今で言うところの映え感あった。子供心に夢すら感じた。
だってそうでしょう?、小さなロウソクだって付いている。4~5本くらいあったろうか?。全て残さずケーキに突き立て火を灯す。近藤じゃない方のマッチを使って。その後にやる事は決まってる。電気も消さずに吹き消した。
───クリスマスなのに誕生会。
その後はお楽しみなデコ分けタイム。三つ離れた弟と装飾品を分けるのだけれど、そこで必ず揉め事が起こる。不二家も理不尽な事をする。同じモノが無いのだから、クリスマスの夜はロウソク消したら関ヶ原。そんなイブが何年も続いた。
───僕らは学習しない子供であった。
大人の秘密を垣間見て不二家から卒業するまで。
12月入ると決まって親から配布されてる不二家のチラシから、どのケーキにするのかを兄弟で決める。それは師走の神聖な儀式のようなもので、今夜もサヨリはクリちゅーる。
───白にするか黒で決めるか。
僕らは決まって白を選ぶ。昭和の男はチョコを食べ慣れてない。食べ慣れて無さつったら、板チョコ一枚で数日苦戦するほど。食べ切れない、食べ切れる筈が無い、だからチョコなど選ばない。この選択、実はどちらを取っても結果は同じである。
───控えめに言って不二家のケーキは不味いのだ。
それはアナタも同じでしょ?。
超合金のように固いバタークリームのコーディング。その中に隠れたケーキは甘いと甘いのサンドイッチ。それは2口食べると胸焼けするほど。それでも懲りずに楽しみだったのはクリスマスの魔法の力に負けたから。
───折角買ったんだから、今年中に食べなさいよ!!。
それが母の口癖だった。高いんだからね、もう!!!。を添えて。
喰って良いのは、喰われる覚悟のあるヤツだけだ。そんな悠長な年末にはならない。今日もケーキ、明日もケーキ。喰っても喰っても減らないのだ。僕の小学時代の12月は31日では終わらない。5日多い36日まであった。そこでようやくバターケーキを食べ終えるのだ。
───クリスマスの祝福と呪いである。
小6の冬、その呪縛から解放された。人生初の生クリームケーキとの出会いがそうさせた。不二家のチラシの一番下にあるクソ高い地味なヤツ。そいつの味が神だった。
───なんだ、なんだ、なんだ。
甘くないのに甘くて美味くて一生食べていたい味。
母が誰かに貰ったお裾分けのケーキである。とは言え、味を知らないから興味が湧かない。普通に甘いの苦手だし。ケーキの断面からミカンが見えた。それだけで、余計に食べる気が失せる。ケーキとはイチゴが乗ってナンボだよ。ミカンで何だよ、貧乏か?。
───男は黙ってサッポロビール!。
何それ給食の居残りかい?。未知のケーキを半ば無理矢理に食べさせられた。食べたくない、食べたくない、食べたくない、あら美味しい!。世の中には人生を変える味があるという。まさしくそれがコレだった。僕の12年の人生を覆した味だった。
───今年のクリは大人の生クリ。
小学生最後のクリスマスはコレだと決めた。不二家のチラシの一番下、憎いアイツを選ぶと弟泣いた。仕方ないので好きなヤツを選ばせた。餅と一緒に食らう苦痛の12月36日を覚悟して。
デコの魅力恐るべし。
コメント
バターケーキが入った箱の匂いまで
覚えてますᐠ( ᑒ )ᐟ
仲間だぁ〜(=´∀`)人(´∀`=)