ヘンリー・ヘンダーソンVSゲンちゃんうどん

アーニャのどん兵衛
木曜日(雑談)

  木曜日は雑談の日。だから、今回も作文の練習をしようと思う。僕にはゲンちゃんうどんのキャラがあるから、有名人がお客さんに来たら? そんなイメージで書き進めてみよう。今回は、SPY×FAMILYのヘンリー・ヘンダーソン先生で(笑)

☆☆☆☆☆☆☆

 凛とした面持ちで紳士は食事をしていた。その厳しい眼差しは客たちへと向けられていた。名門イーデン校の教師たる者、パスタではなく庶民のうどん。エリートたる者、庶民の生活をも知らねばならない。セルフうどん店を選んだ彼には、そんな目的があったのだ。そして、客の中にエレガントボーイを探し出すのは、彼のささやかな楽しみでもあった。彼の名は、ヘンリー・ヘンダーソン。名門イーデンの教師である……。

(残念な身のこなし、この店の客は質が低いな……エレガンスに欠ける者ばかりだ。あの粗野そやな足取りでうどん王国の地を踏まれるだけで、私はとても不愉快だよ。月に一度のうどん屋巡り。今日も空振りに終わりそうだ……)

 ヘンダーソンは、おでんに辛子味噌を付けながら不機嫌な面持ちでそう思った。すると、賑やかな三人組が入店した。見たところ高校生のようである。

「なぁ、サヨっち。今日は何うどん食べる?」

「コロッケ、おにぎり、かけの小。いつもと同じに決まってんじゃん。これでジャスト500円! セルフは庶民の味方だよなぁ~」

「桜木は?」

「何にしましょうかね? その日のメニューを決めるのも、セルフうどんの醍醐味ですから」

 奇しくもその日、ブログ王三人組もゲンちゃんうどんでの昼食であった。

(ほう、少しはエレガンスりょくのありそうなのもいるな。あの三人組の高校生。ふたりはダメだが、あのボーイには資質がある。だが、分からん。確かめねば! スマートな振る舞いで、真のエレガンスを持ち合わせる者かどうかを……)

 三縁とオッツーは秒で不合格である。ヘンダーソンは、ふたりを無視して桜木の動向だけを追い始めた。桜木はトレイを持ち、凛とした姿勢でコップに水を注ぐ。そして第一関門、天ぷらの前に立っていた。

 (さて、何を選ぶ? エレガントボーイ)

 失敗しろと言わんばかりに、ヘンダーソンの視線が鋭くなる。トレイに乗せた小皿の上に、桜木はコロッケをひとつだけ乗せた。

(ふん、不合格───期待外れだ。所詮はただの田舎者だったか。エレガンスが伝統をつくる、エレガンスこそが人の世を楽園たらしめる。品のない男は全て不合格。ところで……あのデカいのはどれだけ食べるのだ?)

 ありきたりな桜木のチョイスにヘンダーソンはがっかりした。桜木は、おにぎりとおでんをスルーして、第二関門、大将にうどんを注文する。桜木が選んだのは、これまた平凡なうどんの小。

(フン、やはり私の見当違いか……)

 ヘンダーソンの桜木への興味は失せた。だがしかし、次の行動にヘンダーソンは衝撃を覚える。

(む? 大将の前で敬礼だと!……エ・レ・ガ・ン・ト! ベリーエレガント! だがエレガントボーイ、最終関門をどうやってスマートに切り抜け……む?)

 桜木はテボの中に麺を入れ、スマートに湯切りを行う。そこまではよかったのだが、隣の女の子が麺を落とした。

(まさかこれは……本物のハプニング)

 ヘンダーソンでさえも、このハプニングまで予測できない。

「お嬢ちゃん。お兄ちゃんのでよかったら、どうぞ」

 女の子のどんぶりに、桜木は湯切りをしたばかりの麺を入れた。彼の顔は、眩いばかりの笑顔だった。

「お兄ちゃん、ありがとう(笑)」

 どんぶに入れらた麺を見て、半べそだった女の子の表情がパッと明るくなった。

「学生さん、うちの子が……すみません……」

 隣の母親は桜木に頭を下げ続けている。

(おのれこしゃくなエレガントボーイ)

 あまりのスマートさに、さすがのヘンダーソンも苦虫を嚙み潰したような顔になる。このような者が庶民の中にいる現実を、エリートたるヘンダーソンは受け入れられなかったのだ。だがしかし、桜木は更なる神対応に打って出た。

「大丈夫ですよ、お母さん。ちょうど僕は体重が増えすぎちゃっていましてね。ダイエットしようかと思っていたところですよ。だから、お嬢ちゃんのお陰でダイエットになりました。こちらこそ、ありがとうございます」

 そう言いながら桜木は女の子の頭を撫でて、その場から立ち去った。

(あまつさえ、母親へのフォローまで! ぬぉぉぉぉ……スマぁート。スマぁート、アーンド───エレガントっ!!!)

 おでんのクシを握るヘンダーソンの指がブルブルと震え始めた……。何も知らない三人は、ヘンダーソンの隣の席に座り込んだ。

(何たる偶然。これは神が与えし必然なのか? 話したい、あのボーイと話がしたい……)

 胸の内を抑えながら、ヘンダーソンは彼らの会話に耳を傾ける。

「桜木……オレのおでん、食べる?」

 コロッケひとつの桜木に、オッツーがおでんを差し出した。

「大丈夫ですよ、オッツーさん。僕のことは気にしないでください。ひとつ徳を積んだと思えば、ある意味でラッキーだったのかもしれませんよ」

(桜木……否、エレガントボーイ。今日は貴様に、よきモノを見させてもらった。次に会ったら……私から、うどんをご馳走させてもらおう、そこのふたりを除いてな。さて時間だ……午後の授業の準備をせねば……)

 三人組の会話を後に、ヘンダーソンは静かに離席した。店を出たヘンダーソンの目には、春の日差しが眩しく見えた。

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