───とったどーーー!!!。
畝から伸びた蔓を引き抜くと、土から何かが飛び出した。色艶良くて、控えめで、それでいてお上品。70年代のあべ静江を連想させるベッピンさん。
───食べ頃の芋である。
サツマイモの花言葉は乙女の純情。その純情、この胸にしっかりと届いています。愛情込めて頂戴します。忘れもしない玉ねぎを畝を立てた10月最後の土曜日の出来事。
───お元気ですか?。そして今も、愛していると、いって下さいますか?。
あ・・・畑の静江、忘れてた。
堀ったばかりのサツマイモはデンプン質が多くて甘くない。だから2ヶ月ほど熟成させてから食すのが正解。デンプン質が糖分に変わるまでじっと待つ。
───これ、試験に出ますよ。
その裏技として、茎を切って1週間ほど芋を土の中で寝かせる方法があるという。偶然にも畑の静江はその状態下に置かれた芋で、早く食べて味を確認しようと考えていた。それを、すっかりさっぱり忘れてたのだ。
───今らからでも遅くない。
そそくさと、スチーマーの準備をし始めると、背中に乗った可愛いの暴力、今日もサヨリはヤンチャです。こうなってしまうと手上げだけれど。
首に猫が乗ると厄介である。手が届かない後ろ側へと逃げるのだ。後頭部から響き渡る幸せのゴロゴロに「しょうが無いないなぁ」の声しか出ない。
───続行である。
猫を首に巻きつけて、スチーマーに水を入れ、芋をセットし。タイマーを回す。あとは、40分間待つだけだ。
───そろそろ下りてくれないかなぁ。
そんな時のポメラです。ポメラを開いてこの記事を書き始めた。ポメラを開くと何故かそうする。サヨリはゆるりと首から下りて、僕の前にちょこんと座っり、ポメラ越しに僕を睨んだ。
───よし、良い子だ。
サヨリが降りたところでコーヒーブレイク。だってそうでしょう?、まだ芋を食べてないもの。だから続きが書けないもの。この続きはお芋さんを食べてから。ちょっと妄想だけ書いてみる。
───妄想中・・・。
ポメラを閉じると、サヨリはお気に入りの椅子の上で眠り始めた。普通はね、膝の上で寝るんじゃね?。サヨリの動きは神出鬼没で誰にも読めない。あらゆる意味で不思議ちゃんである。
───お芋さん、整いました。
冷えた体をほかほかの芋で暖める。甘くなくてもそれで上出来。皮のまま齧り付く。鳴門金時とは別の甘さ。口の中で広がる甘さに静江がシルクスイートだったと悟る。
───これならスーパーに出せる味。
ねっとりとした舌触り、その後で駆け抜ける甘み、食欲無くてもペロリだわ。何個でもイケる秋からのご褒美の筈だった。
───現実に戻ろう。
蒸した芋を割ってみた。そのビジュアルは完璧である。これならマルナカデビューだって夢じゃない。僕はほくそ笑みながら試食を始めた。
ひと口囓って頭を捻る。ふた口目で現実を知る───うちの静江は甘くない。歯触りと舌触り。その食感はシルクスイートで違いない。けれどシルク独特の甘さにはほど遠い。甘さが足りない、我慢が足りない、寝かせが全然足りてない。
───ヒューストン、トラブル発生だ!。
僕は無言でスマホを取り出す。芋を配った人々に「待て!」と注意を促すために。でも大丈夫。芋はまだある気長に行こう。今回の静江から得た教訓は「待て」である。
───現場からは以上です(泣)。




コメント
静江ちゃんの教訓。確かにねぇ、“待って‥”と一言だけが、涙いろの便箋に書かれた、みずいろの手紙。静江ちゃんがお腹に入った頃に、心のポストに届いたようですね。。基本的にお芋は、熟成すると最初より色が濃くなります。上手に熟成させて、完熟レベルまでになると黒い蜜(?)が出てきます。あと、調理法で、お芋を甘くするには、デンプンが糊化状態で、デンプンの分解酵素βアミラーゼを活発に働かす事が重要です。デンプンの糊化が始まるのは65~75度、デンプンを糖に分解するアミラーゼは80度以上では活発に働かなくなります。という事で、食品内部の温度を65~75度内、低温で時間をかけて加熱すると甘くなります。スチーマーはそれ程、高温にはならないと思うので大丈夫だと思いますが‥。
一つ、ごめんなさい。コメントの、待ってと一言書かれたみずいろの手紙、畑の静江ちゃん版ですから、オリジナルとは無関係なお手紙の内容です。念の為‥。
へへへへへ…。
他の読者の皆様に補足して置きますと、あべ静江さんは70年代の歌手兼女優さんです。アイドルというよりは、綺麗なお姉さん系で歌謡番組とドラマでよく見ていました。そんな彼女の代表曲が水色の手紙です。今の50代よりも多くの60代の叔父様たちの心を掴んだ存在と言えるでしょう。小学生の頃、美人と言えば真っ先にあべ静江の顔が頭に浮かびました。
最初はお芋が出来れば良かったはずなのに、目的はダイエット用のはずだったのに、徐々に要求が高くなって味の事まで気になり始めました。旨い芋とは何なのか?。一度しっかり勉強しておかないとデス(汗)。