───やばい、やばい、やばい。
小さく狭い作業室。そこで単純作業に没頭するふたりのおっさん。BGMには中島みゆきの「銀の龍の背に乗って」…。頭からみゆきの声が離れない。その原因は仕事環境であった。
───また仕事、手伝ってくんね?。
コロナ禍で仕事が激減したとある社長からの依頼であった。ようやく需要が息を吹き返したらしい。それは良き傾向である。「暇が出来たら行くわ」と答えたのは芋掘りの少し前の頃であった。
それは、誰にでも出来る簡単なお仕事である。
けれど、誰もが出来るわけではない。信用出来る人物でなければ、今のご時世、仕事の手伝いなどさせられやしない。
───雇う事が怖いのだ。
社長と僕とは中学の同級生で、酸いも甘いも知り尽くした間柄。手伝うのは構わないけれど、あれやこれで行けずにいた。
ようやく時間が取れた事もあり、暇を見つけては手伝いに寄る。仕事に不満も無ければ人間関係も良好である。
───あの時間を除いては…。
僕はテレビを見ない。見ないのだからドラマも知らない。そんな僕でも「Dr.コトー」の名前だけは知っていた。北の国からの純が主役で、どこかの孤島で働く医者の物語。あら、あら、純くんご立派になられて…。予備知識はその程度であり知らない事が仇となる。
───さぁ、泣こう。
お前、泣くの?。
そう言って社長はΟHK(岡山放送)にチャンネルを合わせる。「うちの父ちゃん、泣きながら「はじめてのおつかい」見てるんですよwww」その情報を彼の息子から事前に得ていた。ここで泣く気満々か?。
───さぁ、仕事、仕事、泣くぞう!。
本気である。
作業内容をこの場で語るには尺が足りない。例えるなら、同じ動きを永遠に続ける内職のような感じ。慣れてしまえば、勝手に体が作業を行う。
つまり脳内では別の仕事が可能。作業中、僕の脳は暇なのだ。その間、僕の脳は別の仕事の段取りやブログの構成を考えている。「一粒で二度美味しい」とはこの事。
───あの時間を除いてはだけれど…。
Dr.コトー…あれは良くない。
あれは…アカンやつだった。
人間は歳を取ると涙もろくなるのだそうだ。僕も己にその傾向を感じていた。僕はDr.コトーの物語を知らない。そんな人間が黙ってソレをみたらどうなるのか?。皆さんご想像のとおりである。
───沈黙の1時間が幕をあける。
半ば強制的に耳に飛び込む台詞の数々。あれは地獄です、生き地獄です。テレビに背を向けた状態だからこそ、画面が見えないからこそ、台詞とBGMから浮かぶ情景に、こっちの涙腺が崩壊寸前。涙は出るものじゃ無くて溢れるもの。こういうのに耐性が無かったの忘れてた…。
───昨日は島で赤ちゃんが産まれた回。
前半20分ほどはそうでも無かった。30分を過ぎたあたりでウッと来る。天を仰いでグッと堪える。背面のおっさんの腕が顔に伸びる。お前、毎日、それやってんの?。孤島の診療所とおっさんの日々との化学反応に僕の全米が泣いた。
───やばい、やばい、やばい。
互いに言葉を発さないものだから、余計に台詞が頭に中に飛び込んで、僕は危機的状況に追い込まれる。だがしかし、ここで泣くわけにはいかぬのだ。BGMには中島みゆき、差し込む夕陽、山田くーんタオル1まい持って来て。
───僕らが銀の龍の背に乗る頃。
カシャン、カシャンと機械を動かす単調な音。その中を静かに流れる沈黙の時。時たま天井を見上げて鼻を膨らませるおっさんふたり。YouTubeでライブしたら割とイケそうな絵面。今日もサヨリは元気です。
───5分間の我慢大会。
チャンネルを変え、その後に放送される相棒が始まるまでの時間が永遠のようである。右京さん、早く出て来て。ドラマの余韻が辛いから。
どうしてこの世界はあるのか?、人はなぜ生まれてきたのか?、森高千里はいつになったらオバさんになるのか?。
様々な想いを胸に僕らは淡々と仕事を熟す。仕事中のDr.コトー診療所(2006)。そのうちドラ泣きの未来しか見えない。どう考えてもあれは良くない。仕事が前に進まない。
あゝ、歳だな…。
コメント
おや、まぁ、なんて湿っぽい作業時間なのでしょう。でも、ドライアイは改善しそう‥。涙はね、自分自身が、辛くて悲しくて流す涙は子供の涙。他人の為に泣く涙は大人の涙。自分以外の人間の為に泣けてしまうのは、本当の意味で大人になった証拠です。なーんてね、あ、袖口‥湿った塩味になりそう‥。本日も、お疲れ様でした。
いつもは冗談ばかりで笑ってるんですよ、ホント。あの時間だけは無口で、泣くように作られてるから余計に苦手です。それもこれも、少しは大人になったからでしょうか?。歳だけは随分取ってしまいましたが(汗)。今日は文化の日なので、コトーはもお休みでジャパネットたかたやってました(笑)。