───明日は雨かな?。
茎が茶色い小さなスイカ。小さすぎて採るのが怖い。いま以上、それ以上、大きくなりたがっているのだろうけれど、雨の向こうはいつも爆発。そのトラウマから小さなスイカを茎から外した。
───こいつは絶対うまくない。
でも、大丈夫。僕の胃袋で成仏させてあげるから、同僚のワーチャンも巻き添えに…。ワンオペ夜勤の冷蔵庫。小さなスイカを入れて電話を掛ける。───「スイカ、冷蔵庫に入れてあるから」前回のスイカを絶賛してくれてリクエストまでくれたワーチャンへ伝える。すまんな、巻き添えにして…。
それは、少しだけ心痛む午後6時の出来事。
───そろそろ頃合い?。
午後8時。
喰って良いのは、飲み込む覚悟のある奴だけだ。小さなスイカの試し喰い。青かったら?、黒かったら?、黄色は無いか…。自分で育てたスイカを切る瞬間はいつも怖い。包丁を立てた瞬間、小さなスイカは勝手に割れた。それは、前回と同じ現象。
───半分は多いかも?。
覚悟はあるけど度胸が足りない。
半分に割れたスイカ。その小さい方の更に半分。水を打ったような静けさの中、僕はスイカを事務所の外に持ち出した。覚悟を決めてかぶりつく、眉間にシワ、広がる果汁が口の中に収まらない。
───甘くない!。
サヨリは今日も元気です。
親のひいき目でも甘くない、控えめに言っても甘くない、甘くないのに何コレうまい。甘いスイカがコーラなら、僕のスイカはポカリスエット。乾いた喉が求めるおかわり。残りの半分の半分を秒で平らげた。悪魔の囁きは、時として天使の誘惑にも聞こえると言う。こういうのはね、ひとりで成仏させてあげるに決まってる。
───スイカの味見したけれど、連れて帰っても構わない?。
甘く無かった事、旨かった事、半分食べた事。そして翌日、ワーチャンよりも早くスイカを誰かに見つかったら、スイカはワーチャンの口に入らないだろう事。だから連れて帰りたい事。その全てをワーチャンに伝えた。「そっか、仕方ないね」という返事に期待しての事だった、重ね重ねすまんな。
───今から取りに行く!。
は?、取りにお越し下さいますの?。
いやいやいや、イヤイヤイヤイヤ…。甘くないって言ってんじゃん。もう、ほら、僕らって50過ぎたじゃん?。スイカ半分でそういうのって、高校生とかがやるやつじゃん?…取りに来るの?、腰痛大丈夫?。
───その10分後、事務所のドアがガタンと開いて軽くビビる。
マジっすか?。
「わざわざ来てもらって何だけれど、味見してから持って帰るの決めたら?。気に入らなかったら自分で持って帰るし…」
ささやかな抵抗もどこ吹く風。ワーチャンは、小さなスイカをマルナカのビニール袋に詰め込んで持って帰る気満々だった───同じ畝で育ったスイカでしょ?。味の予想はついているから大丈夫。いつも貰ってばかりかだら、これ、持って帰りなよ。それと、この前もらった韓国激辛唐辛子、ラー油にするから採って来て。カボチャも美味しかったからあったら頂戴!。
帰り注文と共に、半分のスイカは2個のサツマイモに化けました。
わらしべ完成って事で良いのかな?。
コメント
Z世代のスイカ‥。糖度の高さが求められた時代から、甘く無いのにもっと食べたくなるスイカ。体に優しく、ポカリ並みの浸透性の良いスイカは今の時代に、体が求める次世代型ですね。私も食べたいな。ところでワーチャン、さらっと言ってるけどラー油、手作りするの?すごい!料理好きな方なのかな?
甘いスイカへの憧れは強いですが、これはこれでアリだと満足出来ました。ワーチャン、料理も食べるのも上手です(笑)。