愛猫サヨリが新たな技を獲得した。
僕はフェイスハガーと呼んでいる。フェイスハガーとは何なのか? その前に、これまでの足取りを語るとしよう。サヨリがとった戦略の足跡を……と、仰々しく書いてみたけれど、どこにでもある猫の話である。
猫であるなら、生き物ならば。切っても切れない習性がある。それは、猫の三大欲求。言い換えれば、寝る、食う、出す。もちろん、出すはウンチのことだ。猫は人に要求する生き物である。その中でも〝食〟に対してどん欲だ。あの手この手で意思を伝える。要求と呼ぶべきか?
若きサヨリは無口であった。だから、猫スリスリで空腹を伝えた。若い僕も対応が早い。テキパキとカリカリを用意して差し上げる(笑)
ある日。カリカリを与えようとすると、家族からストップの声が掛かった。食事をしたのに、食事を堪能した後で、食べていないフリを覚えたのだ。サヨリがズルを覚えた第二形態である。
中年期に入ると不安を煽る術を覚えた。机の上の何かを落とす素振りを見せるのだ。「落とすぞ、カリカリよこせ」そう言わんばかりに……机の端へ卓上にある何かを動かす。少し動かしては僕の様子を伺い、無反応ならさらに動かす。脅迫の第三形態である。
最初は何でも落とす素振りを見せた。アーニャ……わくわく! なドヤ顔で。何度も書くけど猫は賢い。効率のよさを目指して、トライ&エラーを繰り返す。その先で、成功率が高いアイテムを探し出す。サヨリが見つけた着地点。それは、コップもしくは携帯電話であった。一度、僕の目の前で携帯電話を落とされた。それ以降、僕の机はキレイになった。いつもスッキリなデスクトップに。
時は流れ、サヨリも立派な老猫になる。牙が抜け落ち、食が細くなる愛猫に「ご飯を食べてください」と、僕がお願いする立場になった。幸いにも、今のサヨリの食欲は以前に比べて旺盛である。
───そしてサヨリは、第四形態へと進化を遂げた。
最終形態には入ると、鳴き声で空腹を知らせるように、否、訴えるようになったのだ───ブログでよく書く〝ごわぁん〟である。
「ごわぁん」
「ご飯ね?」
僕はサヨリのお皿にパウチを入れる。
「ごわぁーん」
「はいはい、ミルクね」
「ふぅぅ……(それにゃ)」
そのうち、ふたりで世間話でも始めそうだ(汗)
僕の意識があるときは、これで対応可能だけれど、サヨリと同じく僕だって歳を取る。残念だけれど歳を取る。毎年、例外なく1年365日の時の流れはキッチリ進んだ。残念なことに、おまけの年など一度もなかった。不公平感満載な世の中だけれど、これだけが平等なのが、逆に不公平にも感じてしまう。悪いけど神様、2,3年ほど時間を巻き戻してくれはしないか? やりたいことが、その時間軸にやり残したことがあるんだよねぇ……。と、偶に思う。
昔々……おじいちゃんが、急に寝てしまうのが不思議だった。どこのおじいちゃんもそうであった。ふっと、意識が飛ぶように眠ってしまうのが不思議だった。
でも、今なら分かる。年寄りは、気を抜くと意識が飛ぶように出来ていた。自分だって、気付けば寝ている……悲しいものである、現実は(笑) 寝入ってしまえば、サヨリの叫びが届かない。君にも僕にも届かない。スリスリ程度では起きやしない。そこで、サヨリは強行手段を覚えたのだろう。どこで覚えたのかは知らないけれど、フェイスハガーを覚えてしまった。
フェイスハガーとは何なのか?
それは、映画のエイリアン。キャッチコピーは〝宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない〟 僕が眠れば、サヨリの叫びも聞こえない……。
フェイスハガー───それは、劇中にエイリアンの卵から飛び出すアレである。カブトガニのような異形の生物。バサッと顔に被さるニヒルなアイツ。人間にエイリアンの卵を産み付ける簡単なお仕事をしている。うちの猫はそれをやる。
つまり、サヨリは前足で僕の頭をロックして、僕の顔面に覆い被さっているのだ。あんなの誰かに見られたら、問答無用でスマホに撮られてSNSへ直行だ(汗)
ぷにゅぴにゅとした感触と、ズッシリとした重圧と、息苦しさに瞼を開けば、漆黒の闇である───緊急事態に飛んだ意識も秒で戻る。実に即効性のある手段を見つけたものだ。迷惑千万な手段だけれど……。
元々は、僕の胸の上から始まった行動である。胸の上で喉を鳴らす……それは、第一形態のころからやっていた。それが喉元へと移動して───「私は戦うことをやめないッ!」そんな、いばら姫の勢い余って、僕の顔面が終着駅。それが真相なのだろう。
とはいえ、辛い時には飯を食え。食欲は健康のバロメータ。今の食欲さえあれば、まだまだ、全然、イケそうだ。パウチをしっかり食べ終えて、サヨリはコタツに潜って夢の中。静寂が戻ると、僕はポメラを開いて記事を書く……今日もサヨリは元気です(笑)
コメント
黄昏スてキンさん。
最後まで読んで頂いただけでとてもうれしいです。
これからも、サラサラと読める文章を心がけますね。
ありがとうございました(笑)
キジとらさんのショート噺は上手いですね~
ついつい最後まで読んでしまいました
年寄りは少しの文章でも読むのにかなりのエネルギーを要します
だから途中で読むのを止めてしまうのが殆どですが
オイラにしては珍しくサヨリちゃんのエイリアンぶりを
読ませてもらいましたよ~
芥川賞か夏目賞かを狙えます