ショート・ショート『114106』

おむすび
小説始めました
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 ブログの読者から米が届いた。ブロガーたるものお礼を書くならブログから。それしか僕は知らない。米が僕の手元に届いた経緯。その全てを語るほど、僕は野暮にも出来てはいない。という事で、77.5754%の事実と、11.014%の嘘と、11.4106%の気持ちを添えて、ショート・ショート風に仕立ててみました。暇つぶし程度でよければどうぞ。あ、今日もサヨリは元気です(笑)。

『114106』

――米の花言葉は……。

 小包に愛情たっぷり米袋。これは、彼女が僕のブログに初めてコメントした日から一年ほど経った頃、前ぶれもなく送られてきた小包である。

 僕は書き手で彼女は読み手。彼女は、僕のつまらないブログを唯一理解してくれた人である。独りで書き続ける作業は実に辛い。その千年の孤独から僕を救い出してくれた人でもあった。だから彼女に対して『感謝』以外の言葉を僕は知らない。

 不人気なブログが故に、頂き物とかプレゼントなどの類いへの耐性がまるでない。メールはおろかコメントさえも希なのだ。その僕に小包だなんてどうかしている。でも、夢ならもう少しだけ覚めないで。慣れないという事はそういう事なのだろう。

 何かもらうのは嬉しい。でも僕でいいの? もしかして、送り先を間違ってない? そんな不安が付いて回る。だってそうでしょう? 僕には返せる物など何もない。返せるとすれば、下手っぴな記事を書く程度。夢のような状況に軽くパニクっている僕がいた。

 米の袋は、ジップのロックに大きく3つ。その中でも幾つかに小分けされている。それと一緒に虫除けも。いつもそう、いつだってそう。彼女は用意周到な女である。細かい気遣いを欠かさぬ人だ。

 大きく分けられた3つの袋のそれぞれに、①、②、③、そうナンバリングされたメモがあった。その番号の下には試食の感想が書かれている。「番号の順番に食べよ」そんな意味があるのだろうか? 品種すらも書いてない。

――もしかして、格付けチェック?

 彼女は時折、「察してください」のサインを出すことがある。説明無き米を眺めて我思う――まさか自分で作った米ですか? 彼女なら、それくらいはやりかねない。むしろ、これくらいなら朝飯前。それだけの知識と経験を有しているのを、僕は以前から知っていた。

――つまり今回の小包は、試食して感想を述べよと?

 科学者、化学者、哲学者、歴史学者、天文学者、物理学者、法医学者……学者にも色々あるけど、彼女の立ち位置は農学者である。それも、かなりの切れ者らしい。だからド素人の意見が訊きたいのだろう。そうだと素直に受け止めた。学者様らしい出題なのな。それとも、奥ゆかしさと呼ぶべきか?

 僕がそれに気づかなければ、何事もなかったように黙ってスルーするのだろ? でも僕は、彼女からのピンポンダッシュは見過ごさない。何も出来ない馬鹿だけど、それくらいなら僕にも分かる。

――かくして楊貴妃の双六ゲームが始まった。

 往々にして、学者とは読書家の一面を持つ。そして、この学者様は小説まで書くという。強者だ。だからこの米にも伏線と回収がきっとある。僕への問いが小包で、答えを返すのが僕の役割。過去に何度か同じような遊びをした。フォーク、シュート、ナックル……さしずめ今回は消える魔球。この曲球をどうやって捕球するか? 僕は天を仰いで考えた。取りあえず、まずは落ち着け。

――米の事は米に訊け。

 小さなメモには、「カレーに合う」とか「鰺フライに負けない」とかが記されている。でもそれはフェイクだと裏を読む。その先に逆転の美学がきっとある。そもそも鰺フライに負けない米って。

 頭の中で駒を動かす詰め将棋。そして王手。僕は試食手段をおむすび一択に絞り込んだ。的を得ぬ当てずっぽだけれど、これっきゃない。僕の直感がそう言った。

 けれど僕にはむすべない。同じカタチにおにぎれない。だから、100均でおにぎり器を調達した。これさえあればおにぎりくらい作れるさ。おにぎりと言えばのりである。のりには味付けタイプを使用した。それに深い意味はないのだけれど。

――準備万端、いつでもやれる。

 後は米を炊くだけだ。米を洗ってふと気づく。はっはーん、こっちの可能性も否めない? 米のとぎ汁はペットボトルにストックした。後で畑の肥やしてやろがい。おい、そこのキミ。ここまでは完璧だろ? 僕は指示通りに、①の米から準備する。

 人を良くすると書いて食べる。僕は無学だけれど、学者様、なめてもらっちゃ困る。これが無農薬栽培の米だなんて、ぬるっとまるっとお見通し。そこも考慮しながらおむすびを作る。彼女の懐は深い、きっとまだ何かある。

――うまいな、これ。

 ①の米には多少の不満が綴られていた。けれど、普通にうまくて不満がわからん。ただ、梅干しがあったら更に化けると確信した。②の米への評価は高い。ちょっと待て、これはトラップかもしれないぞ。だから、彼女の裏をかいて③の米から握って食べた。③の米なら梅干しいらない。てか、4合炊いて作ったおにぎり、6個全てが胃袋に消えた。旨いとは、そういう事である。美食家は喋りすぎだ。旨いものに言葉は要らない。4合の米が瞬時に消えた事実が答えだ。

 おむすびとは『御結び』とも書く。その語源は古事記にも登場した、稲に宿ると言われる神産巣日神(かみむすびのかみ)に由来する。ぶっちゃけ農業の神様である。米という僅かな情報から、ここまで深読みし始めると世界を救う壮大なミッションでも遂行している気にもなる。

 彼女の目的は何なのか? おにぎりのその先に、日本農業界の不都合な真実でも隠されているんか? それをブログを通して公表しろと? 何この、ダ・ビンチコード。文春砲ならぬブログ砲? 数分後、あのドアをノックするのが公安当局じゃない事を祈りながらおむすびを作る。深読みが妄想を超えて暴走していた。

 最後に回した②の米を手に取って、僕は御結びの意味を考える。いつもそう、いつだってそう。彼女は賢い。だから、僕の行動などお見通し。最後の米を洗おうとすると、中に小さく折り畳まれたメモを見つけた。やっぱり彼女の手のひらの中であった。全てが彼女のシナリオどおり……か。てかお前、トレンディ純一か? シャンパングラスに指輪みたいな。

――全ては彼女の手のひらの上。

 予測もここまで続けば予言である。アナタ、時代が時代なら卑弥呼のポジションが取れますよ。軽い敗北感を感じながら、小さく折り畳まれたメモを開くと、そこには数字の羅列があった。

――『114106』

 いいよいおむ? いいしいおろ?……うん、分からん! 敗北の二文字が頭を掠めた途端、ガンガンとノックの音が鳴り響く――まさか……公安? ドアを開けると叔母のユキコの姿であった。オカンに会いに来たついでに僕の顔を覗きに来たと言う。オカンの妹だからそんな事もチョイチョイある。

「何これ?」

 当たり前のように僕からメモを奪い取る。たとえ叔母でもこうなるといじめっ子だ。メモを見た瞬間、慢心の笑顔で僕を見た。バブルを生き抜いた悪い顔である。

「ねぇ、そこの青年。この数字の意味が分かるかね? ユキコ叔母ちゃまには、秒で分かっちゃったんですけどぉ。でも、青年には分からないだろうなぁ」

「わかんね、もうお手上げだ。ユキちゃん分かるの?」

「そっか、そっか、フフフフフ。そんなの自分で考えなさい。彼女のために考えてあげなさい。教える方が野暮だもの。そっか、そっか、フフフフフ」

「え、彼女?」

 僕に颯爽と背を向けて、階段を降りるバブルの女は男前であった。以前より、その背中が大きく見えた――ユキちゃん、また太った?

 ユキちゃんが帰った後で調べてみると、米の花言葉は『神聖』であった。その神聖の中、隠された数字の鍵はポケベルにあった。その時代はユキちゃんの縄張りだ。あの数字を相当使い込んだのであろう。そうでなければ分からない。

 僕らが始めた双六ゲームの勝者はどっち? それが分かるのは、僕がアンサー記事を書いた後である。さて、記事を書こう。『114106』が意味する言葉は……いや、何でもない。

――完。

コメント

  1. ショートショートの中の情報量が多すぎて、おばあちゃんの脳内コンピューターは処理できずにクルクル固まってたー。
    あと、数字はググりました^ ^
    おにぎりうまそ。

    • もうちょっとサッパリ味が良かったですか?。次回はサッパリ味で整えてみます(笑)。おにぎり美味しいよ。

  2. おにぎり、美味しそうですね。。ところで、数字。バブルを知らない乙女はキョトン顔になりますよ?。小説は真実と嘘と気持ちから出来ているとは言え、マジネタだと思われたらかわいそうだから、バブルネタ以外の勝手な解釈も考えようかな…。 1+1+4+1+0+6=13 いさ。昔から「薩摩の米蔵」と呼ばれる市になりますね。これ、偶然?。それとも、小説ネタに作り込みました?。答えは雉虎さんの中って事ですか?。読者を騙す気満々ですね(笑)

    • マジネタだと思われたらかわいそうだからの意味は、めちゃくちゃ恥ずかしがり屋だからっていう意味と、今、僕の隣りにいるバブルを知らない男子が「マジで?」と何かを勘違いしていたんです。正解を教えても納得しないんで、ネットで調べてよって言いました…。。

      • おにぎりにしたのは正解でした。おいしく頂いています(笑)。バブルを知らない若者が何と勘違いしたのでしょうね?。少し興味あります。

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