───人間の脳には限界がある。
何もかも全て終わった今だから、書ける話が実はある。1月から昨日まで、毎日のブログ投稿が困難を極めていたのだ。犯人は年の瀬に舞い込んだ依頼である。とあるコンテンツの商品ページの追加制作に絡むのだから書けやしない。このブログは知人らにマークされているからだ。ネット公表以前に内容を晒す行為は仁義に反する。つまり、守秘義務というやつである。
社長とも20年を越えた付き合いで、依頼内容も言いたい事も分かるのだけれど、こいつが中々のくせ者である。僕がやりたくない依頼ランキングなら、常にベスト3に入るやつ。
「今夜、何が食べたい?」
「何でも言いよー」
「じゃ、カレーね」
「えーーーー!」
お母さんには理解できるこんな感じ。依頼内容が漠然とし過ぎていて手に負えない、方向性が定まらない、翌日変わるお好みについてゆけない。だからいつ終わるのかも分からない。遊びならだけれど仕事としてのこれは辛い。
「だったら最初から要望を細かく伝えてくれないかい?」
「出来てみないと分からないから、早く作って見せてよ」
20年以上も続く繰り返し。それは、歳を取りながらにしてタイムリープしているかのよう。増えるアイテム、通らぬ写真、突き返される紹介文。入り口と出口の大きさがまるで違う。徐々に肥大化する作業項目はリバウンドの粋を軽く越え、予算の文字が赤く染まった。
表に見えない仕事ならぶらり散歩気分でやっつけてしまう。けれど、ウェブサイトは見られてナンボ。裏を返せば見せてナンボ。手を抜けば、僕の偏差値にも傷が付く。だから決して手が抜けない。いつ終わるやも知れぬ、井戸の底からの脱出の日々が幕を開けた。
───今回のミッションは高級文房具。
ウン万円もする高価な品。おなじ機能の商品なんて、ダイソーに行けば百円で売ってある。百円VSウン万円の攻防戦。分かる人にだけ分かる価値、普通の人なら見向きもしなくて、今日もサヨリは元気です。
───買うものでは無く贈るもの。
僕の中での結論は見た瞬間からこうだった。それに基づきネットで調べた基礎情報、耳に入れたいつものノイズ。それらをスケッチブックを埋め尽くす。筆ペンで書いた太い文字と睨めっこ。そこからペルソナ(顧客層)を想定し、それに合わせた文章を書く。
この項目は13項目ございます。それら全てを熟知する必要もございます。今では「お客様との電話担当者代わってよ」そう、事務の方に言われる程に熟知もしました。そして一回目の提出が1月の末頃。
───うん、分からん。
そうね、そうね。そうなるだろうと思ってた。一度目は大体そうなる。普通はどこでも一発オッケーなのだけれど、ここに限って一筋縄では通らない。分かり易さ第一主義なのだ。だから小学生にでも分かるように書けば良いのも分かっている。それが出来れば苦労などしない。ですます調で箇条書きに並べれば良い。なのに何らかの爪痕を残したい。この一文は使いたい。その考えが邪魔をする。
───この仕事を抱えてから、すでに二キロ痩せました。
肉体の疲れなら問題ない。むしろ快感である。けれど、このタイプの仕事が入ると話が変わる。集中力がそちらへ回り、脳の機能を奪われるのだ。仕事で作ったキャラが邪魔して雉虎細魚の文章が出ない。ブログ執筆に行き詰まる。
───そういう地獄もあるものだ。
二回、三日の提出を繰り返し、ようやく解放されたのが昨日の出来事。今日は5分で終わる手直しで全行程が完了した。現段階ではその筈である。過去を思い出せても未来が思い出せない。あと、数回のお呼び出しを覚悟しながら。そしてウェブ案件が終わる度に思う事ある。
───いっその事、自分のネットショップを立ち上げてしまおっか?。
と。当たりも障りも無きページが出来上がり、僕の爪痕は残せず仕舞い。それがいつも悔やまれます。毎回、それはそうなるのだけれど(笑)。
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