───半分こしようね。
真鯛だと思っていた大きなチヌ。それを蒸して差し出すと三日で完食した愛猫サヨリ。文句一つも言わずにご満悦で食べ尽くした。よほどお気に召したのだろう、皿まで舐める勢いあった。チヌのお次は正真正銘の真鯛である。このサイズなら食べ切れまい。だから半身は僕が頂く。先ずは自然解凍させるべく冷凍庫から真鯛を出すと、同時にサヨリもコタツから飛び出した。見てたのかの勢いである。いつもの「のっそり」は何処へやら。シュッという感じで身軽にデスクの上に飛び乗った。
───今日も食べる気満々である。
僕は改めてハイテンションに確認した。「この鯛は半分こしようね!」と。そんな事など訊いてはいない。全集中でカチカチの鯛に鼻先を近づけては僕を睨む。かくして1時間の我慢比べが始まった。落ち着き無くご馳走のまわりをテテテと回る。思い出したかのように僕の膝の上に駆け上がり大きな瞳からメッセージを飛ばす。チヌがご飯だった三日の間、サヨリは全く同じ行動を繰り返した。猫とは待てない生き物なのだなと、つくづく思いながら抱き上げると、「ニャー」とサヨリは猫のお手本のような声で鳴いた。
───解凍完了。
良い感じに柔らかくなった。赤ちゃん返りしたサヨリを左腕で抱きかかえ、右手で真鯛を蒸し器に乗せる。ただそれだけなのにサヨリの鼻息が荒くなる。腕から飛び降り鯛の頭に小さな顔を近づけた。それは鯛に話しかけているかのよう。ごめんね、ごめんねぇ~!。僕は蒸し器に透明パーツをセットすると、サヨリはニャっと小声を上げた。鯛の姿は湯気の中へ。真っ直ぐな視線を僕に合わせ、サヨリはこの世の終わりのような顔をした。がっかりニャ~のような顔。どれだけ鯛が好きなのだか。
───明日からはパウチ生活再開なのに…。
魚は火のとおりが早く、あっという間に蒸し上がる。蒸し器から透明パーツを外した先から、ふっくらとした白身が出現。サヨリのテンションも再燃焼。鯛どころの騒ぎでは無く意味不明の行動へと出る。僕の胸に向かって突進してきたのだ。胸の中で可愛いの暴力が弾けた。これが最後の鯛とも知らずに…。
それでは宴を始めましょう。
今回は旅館風でございます。サヨリがお客で僕が仲居さん。お皿の中に箸で白身を取り分ける。食べたら入れて入れたら食べての繰り返し。半身まではそうだった。そこで終わる筈だった。けれど、サヨリの食欲が止まらない。まだ喰うの?、僕の取り分は無いようである。悪かった、悪かった、お前がジョリーじゃないの忘れてた。この勢いなら続行だ。残りの全てをお皿に入れると、その喰いっぷりは胃袋がリセットされたかのよう。真鯛一匹まるごと食べきった男前がそこにいた。
───腹、壊すなよ。
僕の心配をよそ目にサヨリは〆のミルクを飲み始めた。うちのニャンコはまだまだイケる。暖かくなったら釣り糸でも垂れに海に出ようか…。お友達の釣り師さん、いつだって鯛もチヌもウェルカムでっせ(笑)。
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