お師匠様のメールから、ひとつの光景が頭に浮ぶ。執筆中の小説に直結する内容でもある。小説家なら、小説を書くのなら、本来、伏せるべきなのだろう。けれどブロガーは、それさえ普通に記事にする生き物。そしてこの物語は、僕にしか描けない自負もある。もう、八月に入った。それなりに勉強もした。気合いも入れた。今日もサヨリは元気です。だから、本丸の断片を偶にこんな感じで書こうとおもう。これから書くであろうショート・ショートは、本番へのリハーサルである。執筆への集中力を高めるため。そして、大切なことを書き漏らさないために。
それでは、張り切ってどうぞ(笑)
『ひこうき雲』
いちご畑は今が旬。
日曜日の昼下がり。わたしの畑に友人夫婦がやってきた、愛娘といちご狩りを楽しむために。はじめてのよつぼしいちごに、幼女はテテテテテと駆け出した。
「慌てちゃダメよ、転ぶでしょ?」
幼女の後を追う母親。それを微笑みながら見つめる父親。こんな幸せな家族をわたしは知らない。青空にたなびく真っ白な洗濯物のように、わたしの心も洗われた。
しっかり楽しんで帰ってね(笑)
幼女はいちごを一粒とる度に、いちごを小さな指で差し上げて、自慢げな笑顔を両親に見せた。幼女の笑顔に応えるように、母親は微笑み父親は頷いた。いちごの花言葉は幸福な家庭。ひとつひとつの光景が、どこを切り取っても極上映画のワンシーンに見えた。あなた達が来てくれてよかった。そう、心から思った。
大きな喜びと、小さなためいき。
抜けるような青空に、わたしは指で文を書く。あなたを好きになってしまいました───誰にも言えない文であった。
「おねえさん」
テテテテテ。
幼女がわたしの元へと走り寄る。その足取りに転ばないかと不安になった。幼女はわたしに近づくと、いちごを一粒さし出した。いちごをつまむ小さな爪。それがキラキラ光る桜貝のように美しかった。
「ありがとうございました。こんなにおおきないちごがとれました」
「あら、お利口さんね。お嬢ちゃんはおいくつかな? さんかなぁ~、よんかなぁ~」
「よんしゃい」
大きな返事の微笑み返し。あら、可愛い。幸せの塊が眩しく見えた。
「おねえさん、おそらになにをしていたの?」
「大切な人にお手紙を書いていたのよ」
「しってる。それ、らぶれたー?」
小さくても女の子は女の子。大きな黒い瞳をキラキラさせて、春空に向かって指をさす。小さな指のその先に、ひこうき雲が伸びていた。
「じゃぁ、あれは、らぶれたーのあとですね(笑)」
『ひこうき雲』完
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