ショート・ショート『雉虎細魚はやかましい!』

雉虎細魚はやかましい!
小説始めました

 いつものようにパソコンを開く。

 仕事をしながらネットニュースを眺めていると、突然、ビービーとパソコン画面が悲鳴を上げた。赤文字で画面に表示された煽り文字に、これはアカンやつの気配を感じた。何度もブラウザの×印を押したが反応しない。終了さえも出来やしない。そして、新たな扉がまたひとつ。それは、地獄に仏のメッセージ。そのはずだった。あいつがここに来るまではな……。

『このコンピュータはウィルスに感染しています。今すぐ、この番号にご連絡をしてください。マイクロソフトカスタマーズサポートセンター』

 そっか、そっか。

 この番号に電話をすればよいのだな。私はスマホを取り出し電話を掛けた。すると、すぐに女性からの応答があった。自慢じゃないけど、私はパソコンが苦手である。オペレーターは、そんな私に優しく指示を与えてくれた。

 フィリピン系か? 中国か? 片言の日本語が気になるけれど、雉虎のアイツに比べれば、そんなのはどうでもよい話である。優しい彼女の指示どおり、入力作業を開始する。程なくして私のパソコンがリモートコントロールに切り替わった。

 ここまでは完璧だ(笑)

 画面の中でマウスの矢印が動き始め、画面の向こうから何かの操作が始まった。ほっと胸を撫で下ろす。その安心感から妻を見ると、妻の姿が消えていた。彼女は何処へ行ったのだろう。そう思いながらも、オペレータとの会話は続く。そうこうしているとヤツが来た。ガラス越しから大声で叫んでる。何だこいつ、鬼の形相そのままじゃないか。

「直ぐ電話切れ、誰とも話すな!」

 そう、捲し立てたのは、妻が召喚させた雉虎細魚であった。おい、お前。心の煽り運転やめてもらって良いですか? この若造め、これでも私の方がずっと年上である。年下のくせに、その荒っぽい口調が気に入らない。妻のヤツめ、もうすぐトラブル解消なのに面倒な事をしやがって。

「だから、スマホ、切れつーてるやろがい。黙って、言うとおりにしやがれ!」

 夏だから? 暑いから? 貴様はカッカしてるのか? 冷凍庫にアイスクリンあったな……一個、食べる?

 アイツの声に反応するかのように、オペレータの声が突然途絶えた。そんなの関係ねぇの勢いで、雉虎細魚はパソコンの電源ボタンに指を押し当てた。程なくしてパソコンの電源が落ちる。

「私のパソコンになんて事をしてくれるんだ!」

「そりゃ、こっちのセリフじゃ。アナタ、馬鹿なの? 詐欺られてる自覚がないの? こんな事する人なんて、都市伝説くらいかと思っていたけど、実物が生で見られて光栄です(笑)」

 雉虎細魚は半笑いでそう言った。その目は全く笑ってなかった。覚めた瞳で私を見つめる。いつもそう、いつだってそう。これから私は怒られるのだ。身構えながら出方を待つ。

「何でそうなった?」

「ネットニュース見てたらこうなった」

「で、どうなった?」

「画面がビービー鳴って、ウィルスの警告が出たから電話した」

「何処に?」

「マイクロソフトに。だってそうでしょう?、マイクソフトはウィンドウズの会社でしょうが!」

「まだ子どもが飯食ってる途中でしょうが!かよ? ゴロウさん、そこ、マイクロソフトと違うから。マイクロソフトに電話掛けられる方法あったら、こっちが知りたい話やからな。で、何やらされた?」

 雉虎細魚、ヤツが最も得意とする言葉責めが始まった。こちらに非があれば容赦はしない。容赦された試しがない。私にとっては拷問である。

「電話掛けた」

「はぁ? 電話したの? スマホから?」

「した」

「まぁ、ええわ。でも、番号バレたからな、頻繁に不振な電話が掛かって来るかも知れへんで。覚悟だけはしといてな。オタクの番号、たぶん、名簿に載ったから。これから絶賛販売されるから」

「何で?」

「さっきまでの行動で、カモリスト確定やん。あの手この手で何かあるかも? で、何で画面の中でオレらが写ってた?」

「向こうで勝手に操作してたで。オペレータの姉さんが……」

「なにその姫ギャル♥パラダイス。もはやこのパソコンすら怪しいな。応急処置だけしとくから、ちゃんとした会社で調べてもらいな。高確率で何かを仕込まれてる可能性大じゃ!」

「何かって?」

 そう問うただけなのに、雉虎細魚が噛みつき始める。

「そのパソコンで、銀行、クレカ使っておろうが? それ、情報全部ぶっこ抜かれてっかも? 相手だって、リスクを背負ってやってんだから、詐欺だもの。それくらいは必ず抜くし。早急に、銀行とクレカ会社に連絡しといた方がええで。オイラも来るのが遅かった。だから、相手にそれくらいの時間を与えたからな。それが心配だから怒ってんの! 分かるぅ?」

 こいつは、こうなってしまうと止まらない。メッセージどおりにやったのに、それでこんなに攻められるだなんて、今日もサヨリちゃんは元気かな? こんなの、お釈迦様でも腑に落ちないよ。それにしても、全く手を緩める気配がない。そんなに深刻な事態なのか?

「では、応急処置に入ります」

 雉虎細魚は事務的に話し始めた。巻き舌口調から、フリーザさまの口調に変わる。それは怒りの頂点を越えたサイン。その証拠が顔に出る。もう帰りたいの顔なのだ。私がキレたら、喜んでこの場を去るのに決まってる。

「不幸中の幸いだけれど、システムの復元ポイントがみつかりました。これから七月二十日の状態にパソコンを戻します。仮にウイルスが優秀で、復元不能なら諦めてください。僕の希望を言わせてもらえば、ちゃんとした会社で調べてもらって。ほれ、僕は、通り掛かりのボランティアですから。これ以上は致しません。今から数時間ほどパソコンが使えません。だから、勝手に再起動が始まったら連絡ちょうだい。それではみなさん、ごきげんよう(笑)」

 このまま帰してなるものか。

「そうだ、うどん屋へ行こう!」

 半ば強引に、私は彼を食事に誘った。このまま帰られたら私が困る。だったら、うどんくらい安いもの。車に乗せて昼食を済ませると復元作業は終了していた。機械の内容をチェックしながら、雉虎細魚のお小言復活。けれど何とかなったようだ。

「ちゃんとした店で見てもらいなよ」

 その言葉を添えて。

 もし、パソコンに異常が出たら、迷わず強制終了しろと言われた。電源が落ちるまで、電源ボタンを押し続けろとも。そして今後、何があっても電話を掛けるな。謎のオペレータは悪魔だと思え。いや、悪魔じゃ! そして、最後の言葉がこれである。

「誰も信じるな、パソコンも信じるな、俺も自分も誰も信じるな。その先で見えたモノだけが本物じゃい!(笑)」

 とは言え、雉虎細魚はやかましい!

 みなさんは、同じような事があっても、決して電話などをしませんように。そう、心から願っております。マイクロソフトに直通電話はありません(汗)

コメント

  1. 昨日、明日は現代のホラー話と予告があったけど、現代の策略的ホラー話だったとは 怖っ! でも、雉虎さんが近所にいて助かりましたね。雉虎細魚はたのもしい!(笑)

    • 当たり前のように、片言の日本語女性に相談しているから驚きました。こんな事があるんですねー。おい、向こうにワイら見られてるやん!速攻で、PCカメラは付箋を貼って目隠ししました。画面に自分らの映像が映っているのですから冷や汗ものでしたよ。一生、付箋を剥がすなと言ってあります。

      おー怖っ!

  2. この話
    もしも
    実話を元にしてたら
    今後
    おじいちゃんって
    呼ぶからなー(о´∀`о)

    • おう、100パー実話やで(笑)
      おじいちゃんは悲しいからな、せめて、ジージくらいにしといてなー(汗)

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