嫌みのない煽り方

【お知らせ】当ブログではアフィリエイト広告を利用しています。

桃
雑記・覚書き

 友人へ桃を送りたい。

 何もできない僕だから、せめて美味い桃だけでも贈りたかった。相棒に無理を言って住所を聞き出し、受け取ってもらえる手筈が整う。あとは送るのみである。送り状に住所と名前を記入する。ただそれだけが嬉しく思えた。

 最後に自分の名前を書き込んだ、下手な字だ。たぶんこれが、最初で最後の送り状になるのだろう。毎年でも贈りたいのに、万分の一すら返せてないのに、それが出来ない事情もある。だから、一生に一度のチャンスであった。先月末の話である。

 まだかな、まだかな、まだなのけ?

 送り状を渡してから半月が過ぎる。どうやら発送された気配がない。とは言え、相手に対して「桃が届きましたか?」とも聞けやしない。桃の奥さんに「発送しましたか?」と聞くのも感じがよくない。とは言え、未だに桃の収穫は続行中である。そのうちと思えど、もしかしてが頭を過る。そして、その可能性も否めない───発送漏れ。桃の最盛期は忙しい。朝から晩まで、てんやわんやな事情も分かる。けれど、桃の摘果作業から離れてしまうと不安がつのる。手遅れになる前に、僕はアクションを起こした。

 嫌みなく、さりげなく……

「こんにちはぁ~。そろそろかなと思って、桃のお代を払いに来たでぇ~(笑)」

 桃の代金は発送後。仮に発送を忘れていたとしても、これで忘却の彼方から記憶が舞い戻るであろう。倉庫にいたのはジュニアであった。

「こんにちは(汗)」

 キョトンとした顔で僕をみている。ジュニアにまで話が伝わっていないと秒で察した。ビアガーデンに行く前に、ダッシュで立ち寄ってよかった。心のモヤモヤが一気に晴れた。

「かーちゃんは(笑)?」

「いないっす(汗)」

 生憎、奥さんは桃畑で収穫中なのだとか。うん、帰らんよ(笑)。ジュニアに頼んで連絡をとってもらう。電話口から代金を聞き、その場で入金を終わらせた。ジュニアには寝耳に水であったのだろう。見えるぞ、頭の上のクエスチョンマークが。念には念を。すかさず僕は、もう一発、巨大な杭を打ち込んだ。嫌味なきジュニアを煽った。

「一番よいのをお願いな(笑)」

 最高の桃は、二、三日中に発送の予定である。どんなに遅く見積もっても、今週中に友人の元へ届くであろう。どんな顔で食べるのだろうか? 喜んでくれるだろうか? それを想像するだけでウキウキで、今日もサヨリは元気です。

 ボトッ、ボトッ。

 今の時期になると、僕の畑から聞こえる音がある。それは、桃の実が落ちる音。それも、ひとつやふたつではない。数十個の桃が落ちるのだ。あれって美味いんか? そう思っていたら、師匠が落ちた桃を二個くれた。

「早く落ちる桃は苦みがある(笑)」

 そんなものかと持ち帰り、夜食で喰ったら舌が仰け反る。ナニこの完熟。口の中に広がる甘さ。そうだねぇ、不二家ネクター喰ってる感じ。桃ってこんなに甘かったっけ? 偶々遭遇したワーちゃんに、その桃を一個あげた。やるんじゃなかった……海よりも深く後悔した。

 小説のように時計の針が戻るなら。時の流れに逆らって、彼女の元に届けたかったなと少し思う。ドラえもーん、過去に送れる宅急便出してよー。そんな事など出来やしない、出来ないからこそ文字で伝える。

 もうすぐお家に桃が届くよ(笑)。

コメント

ブログサークル