俺は同じ夢を見る。
決まって見知らぬ公園を女性と散歩をしている夢である。そして、赤いベンチに座ってランチを食べる。ランチはいつも、彼女が作ったおにぎりだった。食事を済ませて彼女の家まで送り届けたところで夢から覚める。公園から見える大きな風車が印象的だ。散歩の途中だったり、ランチの途中だったりと、夢から覚めるタイミングはまちまちだ。
中学になるまでは、色付きの鮮明な夢だった。高校を卒業する頃になると、その夢を見ることも少なくなった。見ても断片的な夢であった。その夢には色もない。
社会人になって、夢の記憶を思い出す。
あの公園はどこなのか? あの女性は誰なのか? あの家は実在するのか?……とはいえ、夢の話が現実にあるとも思えない。きっと、ドラマや映画のワンシーン。それを繰り返し同じ夢として見ているうちに、脳が錯覚したのに決まってる。
この程度の話なら、俺と似た体験を持つ者だっているだろう。誰も口に出さないだけなのだ。俺の人生に霊体験とかデジャブの文字は一度もない。だから、そう考えるのが自然である。
───二十五歳で車を買った。その車で旅に出た。
ローン嫌いな俺は、ようやく念願のマイカーを手に入れた。男の現金払いというヤツだ(笑) 仕事で運転には慣れている。だから、納車の日から直近の連休を使って旅に出た。慣らし運転を兼ねた一泊二日のドライブだ。俺の隣の助手席に、最初に座るのは誰だろう。俺にはドライブに誘える友達も彼女もいない。この調子なら、助手席一番乗りはオカンか姉だな……。
俺は車を東に向かって走らせた。東に向かう意味はない。目的地だって決めてない。新車を走らせるのが目的だった。半日ほど走ったその先で、目に留まった道の駅。ここで、しばしの休憩を取ろう。パーキングに車を止めて、道の駅で食事を取ろう。
その前にコーヒーだ。
缶コーヒーを手に持って、窓越しに外の景色を眺めると、夢で見た光景が広がった。印象的だった大きな風車も見えている。俺は缶コーヒーを持ったまま、公園へと足を運んだ。この公園……知らないのに知っている。その感覚が奇妙であった。
やっぱり……ここは……。
俺は公園の中を歩き始めた。夢の記憶が正しければ、もうすぐ赤いベンチがあるはずだ。2分ほど歩いて立ち止まる。あのベンチがあったからだ。そして、ベンチで佇む女性の姿が見えたから───急に俺は怖くなった。恐怖心と好奇心が混乱したまま立ち止まる。しばし考え、俺はベンチに向かって歩き始めた。それは、好奇心が恐怖に勝った瞬間だった。
人の流れに身を任せ、俺はゆっくりベンチに向って歩き出す。そして、俺は気づいてしまう。女性の脇のバスケット。彼女がおにぎりを出したバスケット。俺は無言でベンチの前を通り過ぎた。すると、俺の背中に向かって声がした。
「やっと会えたね(笑)」
振り返ると、彼女が俺に向かって微笑んだ。
絶世の美女だった。
これが世界線の分岐点。その先にあるのはラブロマンス? それともホラー? アナタは、この瞬間をどう捉えますか?
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