アナタの身近でこんな話を耳にしたことはあるだろうか?
───忽然と人が消える……。
元気に生活していたあの人が、前途洋々だった若者が、追い詰められた老人が───失踪、失跡、蒸発、そして神隠し……。その呼び方は様々である。けれど、人が消える事象と捉えれば同じだと言えるだろう。
そして、皆さんは〝呪いのフォルダ〟をご存じだろうか? ほら、そこの女学生が話題にしている都市伝説。そこは、僕の世界とはまた別のパラレルワールドである。ブログ王世界の女子トークに耳を傾けてみようではないか。
「ねぇ、アケミちゃん。呪いのフォルダの話……知ってる?」
「知ってる、知ってる。メールとかSNSに貼り付けられたアドレスをクリックしたら……ってヤツでしょ? ゆきちゃん(笑)」
「あれって、ホントにあるのかな? アケミちゃん」
「でも、アクセスしたらさ。神隠しにされちゃうって、ちょっと怖いよね、ゆきちゃん」
二人の会話を阻むようにパンケーキが運ばれる。
「ご注文は、以上でよろしかったでしょうか?」
彼女たちの意識は、一瞬で都市伝説からパンケーキに奪われた。
「ゆきちゃん! やっぱり、ここのが一番だわね」
「うん、おいしいねぇ~、アケミちゃん(笑)」
おやおや、彼女たちの会話で説明が出来ると思っていたのに。パンケーキに負けてしまったか……では、僕が代わって呪いのフォルダの話をしよう……ところで、カフェのガラスにへばり付いてるガキはなんだ?
その前に自己紹介を忘れていた。このブログの読者ならば、すでに僕の名前をご存じであろう。僕の名前は斎藤である。おやおや、ご存じないですと?
ならば、これで思い出して頂けるだろうか? 僕は将来、上級国民となって日本を動かす男であり、政府のアカシックレコードにアクセス可能な限られた人間であり、未来の人間であると申し上げれば……。
それでも分からないそこのアナタ。僕を知りたければ、僕の活躍を知りたければ───邂逅という物語に目を通して頂ければ幸いである。
それでは、話を呪いのフォルダに戻そう。呪いのフォルダ誕生の秘密と、神隠しのカラクリのすべて。それを、僕は知っている。僕の存在する未来では、都市伝説と呼ばれる事象の謎が科学的に解明されているからだ。
ついでに語るが、産神チフユの存在も証明されている。死神チハルについても同様である。それを下級国民に知らせない理由は、重要かつ危険であると政府から認定された情報だからだ。これらの論文は国家機密扱いとされ、政府のアカシックレコードサーバー内で厳重かつ慎重に管理されている。
話を続けよう。
膨大な機密情報の中から、なぜ高校生の僕がこの情報を知り得たのか? それこそが、偶々偶然の出来事であった。僕は輪廻転生現象の調査中に、呪いのフォルダの存在を知ったのだ。それは、とある物理学者の記録であった。きっとアナタも、この内容を知れば、神に隠された人間と同じ行動をとるだろう……。
どうして、フォルダの中身を読んだ者が忽然と姿を消すのか? 神隠しまでの過程に何があるのか? どうして、僕は神隠しを回避できたのか? 話は少し長くなるかもしれない。次週で終わらないかもしれない。けれど、読者の皆さんに知ってほしい。この世界の真実と人間の本質を……。
そして、僕の話を教訓にしてほしい。不審なメールは絶対に開かぬように。少なくとも二〇三〇年まで呪いの効力は発揮される。だから、絶対に誰も見てはならない。これは、僕から読者への警告である……。
───令和4年度の行方不明者は84,910人を記録した。
出典:警察庁生活安全局人身安全・少年課「令和4年における行方不明者の状況」
では来週土曜日、午後八時にお会いしましょう。
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