国道沿いの雑居ビル。そこが僕の事務所兼作業場で、愛猫サヨリの避難所である。大家さんのご好意から格安で貸してもらっているのだけれど、トイレは共用。外部に設置されたトイレは知らない人でも自由に利用可能だ。コンビニやスーパーのトイレと同じような存在。
───汚ねぇなぁ〜…
とは言え、利用者の大半は常連で、おおよその身元は判明していた。それはそれで良いのだけど、問題は掃除誰やる?。もうね、野糞かってくらいの無法地帯。管理されていない公衆便所レベルに達すると、僕は、右手にブラシ、左手にホースを握り便器とタイルをガシガシ磨く。
グラサン戸愚呂(弟)やフリーザ様に例えるなら80%の力で磨き上げる。完全体のセルモードで便器に挑むのは盆と正月前くらい。トイレの神様には悪いのだけれど、こちらにはこちらの言い分というものもある。
───タダじゃねぇ〜んだよ、サンポール
先ずは、トイレ全体をホースの水で洗い流す。夏は良いけど、冬は冷たい。その後、ひとかけ みこすり サンポール♪。サンポールの成分は、
塩酸(9.5%)、界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩)、洗浄助剤。
KINCHO公式HP サンポールより引用
タイルもオッケーでステンレスや金物はアウト。で、混ぜるな危険!。
トイレブラシを華麗に使い、サンポールを水で濡れた便器とタイルに塗り込むと、タイルとサンポールが化学反応を起こす。すると、雨上がりのアスファルトのような白い煙が立ち昇る。汚れ───溶けてます!塩酸スゲ!緊急避難!そんなヤバい感じが好き。そしてそのまま、愛猫が待つ事務所へ戻る。
───30分間放置プレー
経験上、サンポールを塗ったまま、しばらく放置した方が汚れが落ちる。凄く汚れが落ちるのだ。基本だよ、ワトソン君。前回は『キャリー(スティーヴン・キング)』を読みながら。その前は『日本沈没(小松左京)』読みながら時を待った。
今回の本は『書くことについて(スティーヴン・キング)』。チャンス到来とばかりに、僕の膝を牛耳る愛猫。サヨリは今日も元気です。
30分後、ガリガリとトイレをブラシで擦りながら、左手のホースで便器とタイルを洗い流せば、便器もタイルも本来の輝きを取り戻す。わぁ〜ぉ!、ビューティ・ホー!美しい!。一瞬の満足と一抹の不満。
なんで俺だけ?
───何でだよ?
いつもそうだ、いつだってこうだ。もう、うんざりなんだよ、スティーヴン!!。海外ドラマにありがちなセリフが口に出る。だってそうでしょう?。いつも自分ばかり。一度くらい掃除してけよ。掃除して見せろよ───そうも言いたくもなるものだ。だってそうでしょう?、トイレ利用者全員、成人式2回目をゆうに迎えているのだから。
─── トイレットペーパー隠してやろうか?
で、僕は一切の掃除を止めた。お前も蝋人形にしてやろうか〜、の勢いもあった。つまり、あのトイレを使わなくなった。1ヶ月ほど放置すると、スティーヴンも真っ青な光景が広がっていた。泥だらけのタイル。黄色と、茶色と、赤色。そして、何故だかゾンビ色の汚れがこびり付いた便器。スティーヴン・キングなら、これだけでベストセラーが書けそうな邪悪ぶり。───「曲がれ」───キャリーが見たらトイレは一瞬で崩壊させられるだろう。
───厠(かわや)、閑所(かんじょ)、雪隠(せつちん)、後架(こうか)、背屋(せや)、御不浄(ごふじょう)、憚り(はばかり)…。
どんなトイレの呼び名もそぐわない。いつもそうだ、いつだってこうだ。もう、うんざりなんだよ、スティーヴン!!。トイレの神様に謝れ。ついでに俺にも謝れ。サヨリさんには、ちゅーるをよこせ。
───右手にブラシ、左手にホース、BGMには「ぼくたちの失敗(森田童子)」
僕のやさしさにうもれさせてあげよう。
ピカピカの便器は達成感と自己満足を与えてくれた。不本意で、理不尽で、釈然としない気持ち。それは未だに燻るのだけれど、あれ以来、ウォーキング後のトイレ掃除が僕の日課となった。日に日に輝きを増す便器。不満は残れど満更でも無かった。さつまいもダイエットの聖地がそこにはあった。
清掃を始めてから一週間後───何処かの誰かがトイレをピカピカに磨き上げていた───そんなオチは無い。現実はこんなものだと思いつつ、僕は当たるはずも無い宝くじを買いに出掛けた───もちろん、宝くじ当選のオチも無い。
トイレ用洗剤をネットでリサーチしてみると、『トイレのルック 除菌消臭EX』の評判がすこぶる高い。サンポールの値段との大きな違いも無かった。今のサンポールを使い切ったら、トイレのルック 除菌消臭EXを試してみようと思う。トイレという名の汚れ落としの実験場。記事ネタにでもしなければトイレ掃除などやってられない。
凄い!ビックリするほどトイレピカピカ〜♪───だったらいいなぁ。
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