───cursed-folder-case3(1975-04-16 05-15)
一九七五年四月十六日。
私と彩夏の挙式を七月七日に決めた。
年に一度の七夕であり、彼女の誕生日でもあったからだ。知人が経営するホテルで、彩夏と結婚式の打ち合わせを終え、その足で田所博士の家に向かった。あのマシンを目の当たりにして、彩夏はどんな顔をするのだろう。それがとても楽しみだった。だがしかし、私の予想に反して彩夏の顔は不安げだった。
「お願いだから、この機械の電源だけは入れないで」
彩夏は私に懇願した。彩夏の推測では、この扉は異次元への入り口だと言う。高次元なのか、別世界なのか、それとも別の時代への入り口なのか。それが分からない限り、安易に機械を動かすべきではないと言う。
「もし、扉の向こう側に未知の生物がいたら? それが、この世界に潜り込んだら? あなたにも分かるでしょ? これはとても危険な機械なのよ」
彩夏の言い分は理解できる。彼女の言葉に頷きながら、私は心のどこかで考えていた。扉の向こう側を見てみたい……。
それは、研究者の本能である。
一九七五年五月一日。
結婚式の準備と田所博士の論文研究。私と彩夏との毎日に、幸せと充実感を味わいながら過ごしている。博士の機械の構造も徐々に解明されつつあった。この装置は代替宇宙。つまり、パラレルワールドと我々の世界とを繋ぐ装置。ふたつのチューナーの組み合わせによって、行ける世界が決定される。チューナーのつまみの三角印のメモリが共に〝ゼロ〟ならば、それが私たちの世界である。
メモリをひとつ動かせば、少し違う世界へ行ける仕組みだ。論文に書かれた計算式によると、そこは、ほんの小さな変化しかない世界である。部屋の椅子の色が違うとか、花瓶の花の種類が違うとか、その程度の差でしかない。ただ、時間軸は同じである。だから、過去へも未来へも行くことは出来ない。行けるのは、私たちと同じ時系列を進むパラレルワールドのみである。私の中の好奇心が限界まで膨らんでいる───今にも欲望が張り裂けそうだ。
それを察しているのだろうか? 彩夏は、ひと時も私から離れようとしなくなった。なんて可愛いフィアンセなんだ。
私は彩夏を愛している。
一九七五年五月十五日。
今、わたしは彼が残した日記を読んでいます。この日記に、わたしの記録を付け加えながら。ねぇ、あなた。こうして読むと、交換日記みたいよね。ねぇ、あなた。どうしてわたしを置いて行ってしまったの?
Next last stage ───
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