猫の話

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うちのニャンコの四十九日

───11月26日(火) 今日の高松は、愛猫が逝った日と同じような、朝から雨の一日でした。数日もすれば、12月だというのに、サヨリの居ない事務所では、コタツを出すこともありません。出す気配もありません。この季節になるといつだって、僕の膝の上にいたモフモフが、遠い昔のように思えるのが不思議です。 今日は、うちのニャンコの四十九日。とはいえ、特別に何かをするでもなくて、いつもと変わらぬ一日を過ごし、あの夜と同じようにデスクに向かい、この記事を書き始めました。この瞬間も足元で、サヨリが僕を見上げているような。そんな既視感を感じながら、今宵はサヨリとの想い出に、想いを馳せるつもりです。もう一度だけ、抱...
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キッチンペーパー

高松の早朝は、秋をすっ飛ばして冬のような寒さになりました。不要な買い物をしてしまいました。キッチンペーパーです。相棒からも言われましたが、習慣とは、中々どうして……抜けないものだと知りました。何処の家庭にもあるでしょう? でも、事務所では不要なのです。そんな、キッチンペーパーの話題をするのは初めてですが、僕と愛猫サヨリにとって、キッチンペーパーとは、とても大切なアイテムでした。 8年前から、サヨリは目やにと鼻水が酷い子でした。10年ほど昔、サヨリは一度目の瀕死という状態に陥りました。生死の境を彷徨った原因はウィルスの感染でした。病院で胃袋に直接管を通して、そこから食事を取る日々が続きました。当...
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初七日

元気か? サヨリ! 父ちゃんは元気だ(笑) つーのも、変な言い方ではあるのだけれど、キミがあの世へ旅立ってから一週間が経ちました。友人とは逢えたかな? きっと、逢えたに違いない。だって、今日。僕は友人から手紙を受け取りました。懐かしい文字を見て、とても不思議な気持ちになりました。 キミが逝った翌日。キミの旅立ちの準備をして、畑にキミのお墓を作って、全てを済ませて仕事に出かけて……深夜作業から戻ったのは、午前四時を過ぎていました……なんたるブラック(汗) 習慣とは恐ろしいもので、無意識に事務所へ足が向かいます。そーっと……事務所のドアを開いて闇の中。いるはずのないキミの姿を探していました。まぁ…...
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ごめん、ごめん……

事務所のドアを開くといつだって、事務所の中にはサヨリがいて、音も立てずに僕の足元に纏わりつくものだから、尻尾なんか踏んじゃったりして───ごめん、ごめん(笑) こんな毎日が日常でした。サヨリに向かって「ごめん、ごめん(笑)」と、僕が言うと「にゃー!」っつーて。サヨリ様がお怒りになるものだから「ご・め・ん・な・さ・ぃ~!」っと、謝罪するのが常でした(汗) 二日前。サヨリが自分で立てなくなって、自分で歩けなくなって、自分でトイレにも行けなくなって……お尻をオシッコで濡らしちゃって。自分でご飯も……食べられなくて……。事務所のドアを開ける瞬間、嫌な予感ばかりがして……。あ、オムツ買うの忘れてた。ごめ...
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八年間、ありがとうございました

サヨリは今、僕の膝の上で眠っています。今夜はずっと、そうするつもりで、サヨリの体を抱きしめています。辛気臭いのは嫌なので、文面に嫌な表現や不謹慎などがあればお許しください。 2024年10月8日22時34分。 サヨリは虹の橋に向かって旅立ちました。僕はずっと、サヨリの隣にいたけれど、少しだけ目を離した隙に、眠るように……苦しむこともなく……静かにこの世を去りました。いつもの「今日もサヨリは元気です(笑)」が……もう、永遠に書けなくなりました。「ひと言ぐらい、言って逝け」 そう思うほど、サヨリは安らかな顔をしています。とても静かです……寝てんじゃね? サヨリの小さな体を揺すってみたり、何度も胸に...
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猫の恩返し

真夏には、ギュイーンと伸びて木陰で転がり。真冬になるとま~るくなって、ブロック塀の上に座って日向ぼっこ。時には狂ったように背中をアスファルトに擦り付け、絶対に視線を合わせず、何を考えているのかも分からない。未知の存在。それが、僕にとっての猫でした。好きか嫌いかと問われれば、まぁ、飼う気にもなれない存在です。あの縦細い、ヘビのような目が嫌い。 だって、そうでしょ? 呼んでも来ない生き物だもの。そんな僕が十年近くも、猫のお世話しているのですから、人生なんて、先に何が起こるか分かりません(汗) うちの猫の名前は、サヨリと言います。冒頭のちゅーるを持ったサヨリの画像は、このブログを始めた頃の姿です。今...
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飼い猫信長と野良猫家康(悪魔の子)

悪魔…… 信長のぶながの寝息を背に感じながら、閻魔えんまは己の過去を振り返っていた。それは、楽しくも悲しい過去であった。閻魔がチャッピーと呼ばれていた過去の記憶が蘇る……。「今日から貴様は、俺の仲間だ!」 あの日から、わたしは光秀みつひでのグループに入った。そして、わたしは光秀を兄様あにさまと呼んで、心から慕っていた。わたしには、新しい世界が広がって見えた。仲間と寝食を共にする。共にじゃれ合い、共に笑う……みんな気さくで優しかった。だが、それも長くは続かなかった。わたしは日を追うごとに大きくなった。我が子のように遊んでくれた、姉あねさんたちの優しい目が、わたしが大きくなるにつれて冷ややかになっ...
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飼い猫信長と野良猫家康(生き写し)

それにしても、このニャンコ。恐れを知らぬバカなのか? それとも、天然のアホなのか? 好奇心に満ちた目で閻魔えんまに顔を近づけて。信長のぶながは物珍しそうに、閻魔の細部に至るまで観察している。その無礼千万とも思える行動に、固唾かたずを呑んで見守る猫たちは、同じ未来を思い描く……もうすぐ血の雨が降るのだろう───と。 淡い月光を反射させた閻魔の瞳は愛しい恋人を愛でるかのようで、閻魔の表情は夜空を流れる雲のように穏やかであった。虎柄の白く太い指先を、閻魔が信長に向かってゆっくり伸ばすと、桜色の肉球が信長の頭を優しく撫でた。触れただけで壊れてしまう、そんな……ガラス細工に触れるが如く、慎重に丁寧に、閻...
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飼い猫信長と野良猫家康(ホワイトタイガー)

木々の隙間から差し込む月光が、閻魔の白き体毛に反射して、神秘的な輝きを放っていた。その神々しい姿を囲むように、猫だかりができている。最前列に座るのは、各エリアを統治するボス猫たちだ。その背後に手下てしたたちが次々と並ぶ。この集会は、閻魔が鬼猫おにねこと呼ばれた昔から、満月の夜に行われていた。「皆さん、お揃いですね」「オリクが来たよ、道を開けな」 ケイテイとオリクが祠ほこらの前に到着すると、手下たちが自動ドアのように道を開けた。二匹は閻魔の前でお辞儀をしている。家康は手下たちの背後から、その様子を見つめていた。「家康ぅ! ケイテイちゃんって、すごい猫なの? なんか俺、感動してるぅ~」 幻想的な儀...
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飼い猫信長と野良猫家康(チャッピー)

八月の満月の夜。山の中腹の祠ほこらの前に、老いた猫の姿があった。雪が如き体毛と、闇を思わす漆黒の虎柄が神々しい姿で佇たたずんでいる。山里の猫たちに閻魔えんまと呼ばれる老猫は、静かに月を眺めながら仲間たちの集結を待っていた。時折、己の運命さだめを呪いながら、閻魔は深いため息を漏らして……いた。 一間半(273センチ)ほどの巨体を持つ、閻魔はこの地の者ではない。生まれて間もなく、この地へ迷い込んだのだ。閻魔が生まれた世界では、人間の手厚い愛情を受けながら、ゾウ、キリン、サル、フクロウ……。様々な動物たちに囲まれて、閻魔は楽しく暮らしていた───チャッピー。幼き閻魔は、そう呼ばれていた。 ある晴れた...
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愛猫の新たなプレイ?

サヨリは、無言で意思を伝える猫である。もの悲しい目で僕を見る。お皿の前に座れば腹が減った。冷蔵庫の前に座ればミルクが飲みたい。ドアの前に座れば外の景色を眺めたい。食事に口を付けなければ───皿を洗え……。こんな具合でいつまでも、静かに僕が気づくのを待つ猫だ。 いつの頃からだろうか? 夏に入ってからかもしれない。無口なサヨリが、また鳴くようになった。気になって、触ればニャー。触れなくてもニャー。いわゆる猫なで声ではなくて、低い声で謎の何かを主張するのだ。長年、事務所を守ってくれた猫である。彼の要望に応えたい意思はある。だから、小さな子どもと話すように、ご飯? お水? 抱っこ?……と問うのだけれど...
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サヨリの近況報告をば

2024年の8月は、猛暑で始まり台風で終わる。 最大級とか暴風雨だとか、心の準備に余念はないのだが、空は台風の気配を感じさせない。天を仰ぐと青空までもが顔を出す。これが、嵐の前の静けさか……。30日午前6時。不安の朝が幕を開けた。 お昼の高松は雨模様。重力に従って風の影響を受けることなく、雨粒は真上から真下へと落下している。それは風の弱さを示唆しているのだが、その静けさが、余計に不安を助長させる。心配事の九割は、現実には起こらない。そんな最新研究報告もあるけれど、今宵の夜勤は地獄だな……未来の危険を察して、お昼を使って記事を書く。台風の影響で何かあれば、ブログどころの話じゃない。自動投稿でセッ...
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飼い猫信長と野良猫家康(ケイテイ)

「おい、覇権(家康)と絶望(オリク)が睨み合ってるぞ!」「えーーー! 家康の現役復帰かっ!天地がひっくり返るぞ!」「世界地図が塗り替えられる……」 信長を挟んで睨み合う家康とオリク。地を這うような低い姿勢の家康とは対象的に、後ろ足で立ち上がるオリクの顔には、余裕の笑みが浮かんでいる。体格と経験値なら老兵家康、勢いと持久力なら女帝オリク。猫の勢力図が書き換えられる戦いに、固唾を呑んで動向をうかがうボス猫の群れ。もし仮に、家康が現役復帰を果たせばすべてが変わる……。引退した今も尚、覇権の称号の影響力は健在であった……。「おい。真ん中の茶トラの若造……あれ、なんだ?」「家康の息子じゃねーか?」「いや...
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飼い猫信長と野良猫家康(ボス猫オリク)

家康が海の木陰で涼んでいると、信長が少女を連れてやってくる。タマタマを消失してからというもの、信長は謎の少女と仲良しになっていた。「家康ぅ~」「光秀か……」「信長じゃ!」 茶トラとキジトラ。二匹の猫が合流すると、女の子はどこかへ消えた……。「誰や? あの女」「ちゅーるちゃんや。いつも俺に、ちゅーるをくれるんやで」 家康の問いに、ニヤケ顔で信長は答えた。家康は知っている。猫も気まぐれだが、人間だって気まぐれだ。子どもなら尚のこと。さてさて……信長のちゅーるは、これから何日続くやら……。一ヶ月? いや、長くて一週間ってところだろう。人間の子どもは飽き性だから……。 それはそうと、信長は今夜のことを...
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飼い猫信長と野良猫家康(タマタマが……)

まだまだ暑い日が続く……野良猫には厳しい季節だ。「楽しそうに泳いでるやんか……」 いつもの海の木陰から、海水浴を楽しむ人々と飼い犬を眺めて、ため息を漏らす家康がいた。今日の食事と暑さしのぎ。それは当然として、もうひとつ。家康には気がかりがあった。お盆を目前に、信長が姿を見せなくなったのだ。鬱陶しく感じていた信長だが、会わずにいると気になるものだ。きっと信長は、クーラーの効いた涼しい部屋で、御主人様と甲子園やオリンピックを見ているのだろう……この暑さ、当然だ。家康はそう思っていたのだが、信長の身に大問題が起こっていた。「家康ぅ!」「久しぶりやな、光秀」 久々の信長に家康はうれしかった。素直に名前...
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飼い猫信長と野良猫家康(ヒトコワ)

この数日、信長は違和感を感じていた。 ずっと誰かに見られているような、何者かに尾行されているような……そんな気がしていた。それがとても気持ち悪い……。それと同じ感覚に家康も、臨戦態勢を取っていた。飼い猫と野良猫とでは、危険予知能力に雲泥の差がある。判断を誤れば、夏の扉どころか地獄の門が開くからだ。感覚を研ぎ澄ませる家康は、ニャルソックにも余念がない……。野良猫とはそういうものだ。家康とは対称的な家猫が、いつものようにやってきた。「家康ぅ!!!」 海の木陰で釣人を眺める家康に、信長は泣きつくような声をあげた。その声に、軽くギャン泣きが入っている。「秀吉か……」「胸で草履を温めるサルとちゃうわ! ...
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飼い猫信長と野良猫家康(正解率五十パーセント)

───明日から八月である。 梅雨が明けてからというもの、海の木陰で家康は夏の暑さをしのいでいた。猫カフェでバイトをしたい気持ちもあるが、老猫にお呼びがかかる場面など稀まれである。───平成の猫カフェじゃ、ナンバーワンとうたわれたワシなのにな……年は取りたくないものじゃ。 この数年間、家康は釣人のおこぼれで生計を立てていた。それが、老いた野良猫の末路である。けれど、家康はたくましく生きていた。───そろそろか……。 堤防で釣りをするふたり組。それに的を絞り込む。竿が引いた瞬間、釣人の横に座っておこぼれを待つ。それが家康のオペレーション梟ストリクス。 男女の組み合わせなら、高確率で魚を得られる。男...
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飼い猫信長と野良猫家康(軽い決断)

梅雨も明けたある日。 縄張りを監視する家康のニャルソックだが、焼けるように熱い瓦の上になんていられない。野良猫のサマータイムの導入だ。日中は海の木陰で涼をとる。海に出たついでに、釣人から魚を分けてもらう。人間なんて、チョロい、チョロい。近づいて、ニャーニャー鳴いてりゃ勘違いを起こす生き物だ。あわよくば、ちゅーるがもらえる特典もある。家康はのんびりと、夏のバカンスを楽しんでいた。「こんなところにおったんか? やっと見つけたぞぉ、家康ぅ!」 木陰で涼む家康に、暑苦しい猫の声。信長が家康に向かって走り寄る。「久しぶりやな、秀吉」「信長じゃ!」 毎回、繰り広げられる茶番にも、そろそろ家康は飽きていた─...
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それだとて、今日もサヨリは元気です(笑)

「猫ちゃん、いくつ?」「忘れた」 意図的に、僕は愛猫サヨリの年齢を考えない。永遠の十歳くらいで留めておきたい。そうでもしなけりゃ、やってられない。それなりの老猫だけれど、まだまだイケるっしょ? そんなぶらり散歩気分で、毎日を過ごしたい。こいつの頭を撫でていたい。 猫ブームが始まってすぐ、猫を飼い始めた人々も、たぶん、同じ気持ちで生きている。僕は、そう思いたい。 ところが……だ。 思わぬ方向から、サヨリの年齢を考えさせられた───オカンである。 話は変わるが、オカンの飼い犬は僕のことが大好きだ。ちなみにメス犬である。その愛情表現があからさまで、飼い主のオカンが苦笑いするほどなのである。恋する乙女...
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ザブンとプール、二度目の夏

地球上に猫が誕生したのは13万年前。中東の砂漠を生息地としたリビアヤマネコだと考えられている。猫が水を苦手なのは、その影響があるからだ。そして、DNAに刻み込まれた生態は今も残る。猫はコタツで丸くなる(ならないけど)のは、猫が寒さに弱いからである。裏を返せば夏が好き。脈々と受け継がれた習性は、しっかりと愛猫サヨリにも残っていた。冬はコタツで越冬だ(汗) 夏は割と快適そうだった。とはいえ、2020年以降になると話は変わる。今でも可愛い顔だが老いには勝てない。夏の暑さが辛そうだった。気温が上がると体調が狂う。───サヨリさんは夏に弱くて…… 過去の記事を読み返すと、そんなことを何度も書いた。この夏...