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後ろの席の飛川さん〝016 七つの海は、女の涙でできている〟

ボクへの誕生日プレゼントを発端に、姉ちゃんの初恋の相手が、桜木さんだと発覚した。でもそれは、ボクの想定の範囲内。うどん県は、日本で最も狭い県である。讃岐の田舎じゃ、あり得ないことでもない。むしろ、その逆。コミュニティは小さい。よくある話だ。「姉ちゃん、それから?」 姉ちゃんの恋バナに、ボクは耳を傾けた。「ウチの高校じゃ、桜木先輩は、神童って呼ばれていたんだ。成績は群を抜いていて、常に学年トップだった。てか、全国模試でも上位だったらしい」 桜木さんは、ボクの目から見てもそんな感じだ。「沈着冷静で、いつも穏やか。そして、あのフェイス。ウチのような隠れファンは多かったと思う。でも、目に見えない壁を感...
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後ろの席の飛川さん〝015 見かけで人を判断してはいけません〟

十三本のロウソクの火を吹き消して、誕生日の歌をみんなで歌って、ケーキを切り分けると歓談かんだんタイムが始まった。 鼻の下を伸ばした飛川ひかわさんは、尾辻おつじさんにべったりだ。「いつも主人がお世話になっています。未来の妻の月読つくよです。ほほほほほ……」 お客さんに、微笑みかける飛川さん。隣で終始無言の広瀬さん。そして、お客さんの苦笑い。 ボクにとっては、何もかもが非日常で、実感がまるで湧かない。さしずめ、映画を観ているような感覚だ。ボクはというと、芸能人の記者会見のように、ゆきさんと近藤さんから、鬼のような質問攻めだ。「黄瀬きせ君、彼女とかいる?」「もう、アケミちゃん。そんなのハラスメントに...
小説の話

天国からの贈りもの

5月9日早朝。 いつものように仕事へ出掛け、いつもと変わらぬ挨拶を交わし、何食わぬ顔して桃の摘果の作業を始める。空を仰げば曇天で、僕の心と同じ色。心身ともにボロボロだ。作業開始から一時間後、大粒の雨が降りだした───今日の作業は、ここまでだ。 頬を濡らす雨粒は、天国からの贈りもの。 僕の体調が気がかりな、相棒が降らせた雨に違いない。東雲しののめのメールに相棒の訃報があった。相棒が死んだ……そんなの嘘だ! この時でさえ、現実を受け止められない僕がいた。 二年前、友人が他界した。ブログの読者、茶熊さんだ。彼女の望みは、僕の小説を読むことだった。彼女の死と望みを知らせてくれたのが相棒だった。それを伝...
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後ろの席の飛川さん〝014 誕生会の送迎は、事前に連絡を取りましょう〟

五月七日は、ボクの誕生日である。その前日、ゴールデンウィークの最終日。 お昼のうどんを済ませたボクが、部屋で三島文学を満喫しているのは、偶然ではなく必然だった。飛川ひかわさんの邪魔はない。それを見計らったかのように、ボクのマンションのチャイムが鳴った。「ガクちゃん。広瀬さんって子が、玄関にいるんだけど。それが、とても美人なの……」 予期せぬ美少女の訪問に、ママが驚いたのは語るまでもないのだが……。 何事も、度を越せば恐怖である。ママの複雑な表情が、そのすべてを物語っている。広瀬さんが美少女すぎるのだ。だからママに罪はない。「ボクが話すから大丈夫だよ、ママ」 玄関へ飛び出すと、広瀬さんが立ってい...
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後ろの席の飛川さん〝013 女の子の顔に傷がついたら大変です〟

ボクの同情心などつゆ知らず、声を荒げる飛川ひかわさん。「忍、代わって!」 広瀬さんから手際よくスマホを奪うと、飛川さんはテレビ通話に切り替えた。ボクにも会話が丸聞こえだけれど、気にも留めずに話を始める。「ちょっと、桜木君でしょ? 余計なことをしてくれたのは?」 甲高い声で、怒りをスマホにぶつけている。「なんのお話でしょうか?」 こっそりスマホを覗くと、そこには眼鏡をかけた男性が……飛川先生と同じくらいか? どう見ても……ボクが桜木君と呼べる年齢ではない。「ベルトの少女」 ぽつりと呟つぶやく広瀬さん。「あぁ、その件ですかぁ。春休みのうちに、T大の新入生を調査して、手を打ちましたが、何か問題でも?...
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後ろの席の飛川さん〝012 体育館裏の正義の味方〟

───ゴールデンウィーク前日。 放課後の体育館裏で、ボクは三人の男子生徒に囲まれていた。辺りを見渡し、ボクは監視カメラを探すのだが……ない!「ようやく会えたね、黄瀬君。監視カメラがないのが残念だ。さぁ、お兄さんたちと遊ぼうよ」 三年生を意味する青いネームプレートに、忌まわしき過去の記憶が蘇る。───林 小五の二学期。ボクを登校拒否にまで追い込んだ、クラスメイトと同じ苗字に背筋が凍る。「三年一組の林です。小学校で弟がお世話になったようで、兄としてはお礼をしないと……でしょ?」 目の前で、不敵な笑みを浮かべる男こそ、ボクをいじめたクラスメイトの兄である。しかも一組、頭もキレる。 体育館裏の倉庫は、...
畑の話

今年の苺は大満足(笑)

───2025年4月30日(水) 野菜の支柱を竹に切り替えました。というのも、三年使う予定だった支柱がポキポキと折れ始めたからです。百均で購入すればよいのですが、折れた支柱の処分に困るので、山から竹を切って使うことにしました。朽ちた竹を菌ちゃん農法の畝の材料にすれば、現金の支出と処分の手間が省けます。畑の見かけが貧相に見えますが、そこは割り切ってやりましょう。野菜が育てば、葉っぱで支柱が隠れてしまうのですから(笑)よつぼし(苺) 去年、一昨年と、数粒だけをちまちま食べていた苺ですが、今期は大人食いができそうです。理由は分かりませんが、土が合っていたような気がします。 ランナーが出る向きを合わせ...
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後ろの席の飛川さん〝011 七月に、人類が滅亡するってホントかな?〟

今ボクは、飛川家のダイニングテーブルの前に座っている。ボクの隣にゆきさんが、ボクの前には飛広コンビが座っている。アウェイでプレイするサッカー選手。その心理が、よく分かる。 飛川先生はキッチンで、アジフライを作っている。飛川家では、女子をお姫さま扱いをする習わしなのか? 先生だけが働いているのが、とても気まずい。 それよりも、ボクは他所さまのお宅に伺うことにも慣れていなくて、なんだかとても居心地が悪い。借りてきた猫のように背中を丸めて、ボクは一点を見つめている。猫の箸置きが……愛らしい。「ど?」 真っすぐな目で、ボクに問う広瀬さん。きっと、今日の感想を訊いているのだ。ボクには、彼女の心が見えてい...
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後ろの席の飛川さん〝010 胃袋に魚を入れるまでが釣りだから〟

広瀬さんがこよなく愛する小説家は、広瀬さんの身近な人だった。その衝撃にたゆたう暇を、飛川さんは与えない。 というよりも、さっきから殺気立っている。釣りはもっとこう、のんびりするもの……でもなさそうだ。「きいちゃん、時は来たれり!」 そう言うと、海を指さす飛川さん。飛川さんは、軍人さんか?海面に視線を落とすと、なんだこれは? 魚の群れが、まるで巨大な生物のように海中をうねっている。飛川さんは、これを見越して「潮目がいい」と言ったのか。 慣れた手つきで、飛広コンビが巧みに短い竿を操って、ジャンジャン魚を釣り上げる。これぞ、瀬戸の釣りガールって感じであった。 釣りの仕掛けは単純で、小さな針が五本付い...
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後ろの席の飛川さん〝009 海には保護者同伴で行きましょう〟

ベンツを操るおっぱいゾンビが、広い国道から狭い山道へと進路を変えた。ボクらを乗せた赤いベンツだ。 山道に入った途端、車内がシーンと静まり返った。頑なに、ゾンビを否定するボクだとて、この沈黙には並々ならぬ恐怖を感じる。 あの飛川ひかわさんが、ひと言も喋らない……。 ボクは密かに腰を浮かせ、ドアのレバーに指をかけ、逃亡準備に取りかかる。こんなところで、喰われるものか! アップダウンを繰り返した山道の先で、ウインカーを上げ速度を落としたおっぱいゾンビが、小さな駐車場でエンジンを止めた。 船着き場、漁船、堤防……どうやら、目的地は漁港のようだ───人がいる! こんなうれしいことはない。車窓から見える人...
畑の話

初収穫!よつぼし苺、食べました(2025)

───2025年4月24日(木) 前回の畑の近況報告へのアクセスが思いの外よかったので、味を占めてシリーズ化しようと思います。週に一度のペースなら、野菜の成長度合いがよく分かります。サツマイモの収穫時期(十月中旬)くらいまで、記事ネタに困ることもなさそうです(笑)よつぼし(苺) 今年で三度目のよつぼし苺。本日、待望の初収穫でございます(笑) 大きな粒のサイズなら、スーパーで見る苺に引けを取りません。みんな大好き、ショートケーキの上の苺よりも大きいです。全部このサイズになればいいのにな……大きな実を作るには、花の段階で間引くのでしょうか? 洗って冷やして食べてみると……当たり前ですけれど、やっぱ...
畑の話

よつぼし苺の実が赤く色づいた(2025)

───2025年4月22日(火) 畑のゴミの廃棄の準備で、今日は畑に寄りました。使い終わった、不織布・ビニールシート・マルチや折れた支柱が主なゴミです。小さな畑ですから、ゴミの量は大したものではありません。ですが、数が少ないうちに処理をするのが楽なので、そうしています。 水曜日は雨の予報が出ているので、水をやることもなければ、笹の処理も概ね終了。これといった用事もありませんから、鬼の居ぬ間に畑の洗濯です(笑) そんな、ぶらり散歩気分で畑を見れば───苺(よつぼし)が赤い! 食うべきが、食わざるべきか……そこが問題ではありますが、赤い実の裏側。日の当たらない部分がまだ青く、かといって、熟せば虫の...
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後ろの席の飛川さん〝008 担任教師の落とし方〟

目の前で繰り広げられる、恋愛ドラマをボクは見た。 デートの誘いを直視するなど、最初で最後の見納めだ。その興奮が冷めやらぬうちに、午後の授業が終わってしまう……。 ボクの後ろの席では、五枚の入会届をニヤニヤ見つめる飛川ひかわさん。いかにも悪代官って顔をしている、悪い笑顔だ。 デートをキメた津島君は、その場で入会届にサインした。平岡君は、活動不参加を条件にサインした。 平岡君にサインをさせたのは、他でもなく津島君だ。結局のところ、ボクの出番はどこにもなかった。 午後の休憩時間で、ブログ王が三冊売れた。お客は男子のみである。広瀬さんとお近づきになれる。そのチャンスは、ブログ王だけある。きっと明日から...
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後ろの席の飛川さん〝007 広瀬さんの闇バイト〟

後ろの席の飛川ひかわさんが、食事を済ませて席を立つ。「きいちゃん……私。必ず生きて帰るから」 大げさな、死にはしない。職員室でお叱りを受けるだけだ。「飛川さん、御武運を」「うん、月読つくよがんばる!」 大きなリュックを背たろうて、飛川さんは職員室へと旅立った。飛川さんがいない教室は、驚くばかりの静けさだ。 これぞまさしく読書タイム。喜び勇んで〝仮面の告白〟に手を伸ばす。中学生のボクにとって、三島作品は刺激が強い……だが、そこがいい。いただきます。 本に視線を移すや否や、前の席の広瀬さんが、ボクの方へ振り向いた。無言で見つめる眼差しに、ボクは気まずさを感じてしまう。いつ見ても美しい顔だ……。「本...
畑の話

苺がそろそろ(2025)

───2025年4月18日(金) 畑の近況報告をば。今回は、数が多いのでブログ風で(笑)よつぼし(苺) もうちょい頑張れば、よつぼし苺が食えますなぁ(笑) 気のせいでないのなら、今年は実がたっぷりって予感がします。小さい実を間引きしたとて、数の確保はできそうです。土がよかったのかもしれませんね。 一本だけ生き残った、初代の苗も元気です。実は小さいので観賞用です。ランナーを育てて来年リベンジ(笑)茄子 葉っぱが切れてバラバラになった苗は、そのまま枯れてしまったので、新たな苗を購入して植えました(八十円)。どちらも、もうちょい元気がほしいところ……。九条ネギの勢力に負けてるのかな?トマト トマトも...
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後ろの席の飛川さん〝006 おっぱいゾンビ〟

四月も半ばを過ぎた頃。飛川ひかわさんが事件を起こした。「ねぇ、きいちゃん」 後ろの席の飛川さんは、いつも笑顔で問いかける。「ゾンビの知り合いっている?」 満面の笑みを浮かべる飛川さん。勉強のしすぎで壊れたか?「そうですね、今のところ……いませんね」 ボクは冷静に対処する。「私、ひとりだけいるの。ゾンビの知り合い」「そ……そうなんですね」 重症だ、後で保健室の先生に相談しよう。カウンセリングが必要だ。「あれれぇ。きいちゃん、反応が薄いのね」 この場合「ぎょえぇぇぇ!」っと叫べばよかったのか?「ゆきちゃんって名前なの」 新キャラのお出ましだ。一時間目のチャイムまで五分ある……少し遊んであげるとしよ...
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後ろの席の飛川さん〝005 こいつはダメだ〟

明光めいこう中学に入学してから早いもので、一週間が過ぎ去った。ボクは相変わらずのボッチだけれど、イジメなき世界は素晴らしい。「ねぇ、きいちゃん」 後ろの席の飛川ひかわさんは、いつも笑顔で問いかける。「きいちゃんは、小説を書かないの?」 教えてあげよう、飛川さん。小説家は、ハイリスクでローリターン。割に合わない職業なのだ。断言しよう。『オモロない』のひと言で、ボクの心は闇落ちすると……二発も喰らえば息絶える。「ボクには、そんな才能ないですからね。やっぱり、作家先生のサポートがしたいかな……」 飛川さんは残念そうな顔をするのだけれど、ボクにはボクの道がある。「小説を読むの───そんなに好きなら、何...
畑の話

強風続きで、ナスの葉っぱがバラバラです

───2025年4月10日(木) 夏野菜の準備もひと段落。さりとて、種の発芽が気になって、畑に行くと事件です! アイキャッチ画像でお気づきだろうか? 辻斬つじぎりに襲われたかのように、ナスの葉っぱが切れてます!───このバラバラ事件の犯人は、やはりハキリの野郎だろうか? 第一容疑者に浮上したのがハキリムシ。こいつは苗の葉っぱを切り落とす。とても手癖の悪い虫で、去年はマスクメロンの新芽を軒並みやられた。その苦い記憶が蘇るのだけれど。この現状……果たして、ハキリ野郎の仕業だろうか? ここまで育ったナスの茎。それを切る猛者もさともなれば、ゴジラ上陸くらいの脅威である……そんなことって、ある? そもそ...
畑の話

スイカの種まき(2025)

───2025年4月8日(火) ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば……もうちょっと、風流に鳴いてくれないか? 山の麓ふもとでせわしなく、カラスとホトトの大合唱。おまけに暴風だって、春何番だよ?……営業妨害も甚だしい(汗) それに加えて玉ねぎの葉が倒れてる……つまり、待ったなし! これそまさしく、収穫のサインなのである。 やりたくないけど、やりますかぁ! おやおや……アスパラガスは初物だ(笑) 玉ねぎを収穫すると、畝うねがひとつ空き家になった。実に寂しい……サツマイモを植えるべく、古い黒マルチを剥がして、牡蠣殻かきがら石灰を振り撒いた。そして丹念に土を耕し、新たに黒マルチを施した。蔓ボケするから...
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後ろの席の飛川さん〝004 先駆者、飛川月読〟

後ろの席の飛川ひかわさんは変わり者だ。その表現に問題があるのなら、先駆者せんくしゃと言い換えてもいいだろう。パイオニアだ。「きいちゃん、おはよう」 学校の下駄箱の前。甲高い声で、朝のあいさつをする飛川さん。「飛川さん、おはようございます……げっ!」 制服のスカートの下に体育のジャージをはいている。これって……セーフなの? 教室に向かって並んで歩くと、飛川さんが歩を進める度に、パカパカと上履きが音を出す。 飛川さんの制服姿は、上着の袖は指先まで覆い、スカートは膝小僧をすっぽりと隠す。上から下までブカブカだ。これもまた、小柄な飛川さんの成長を見越してのことであろうけれど……。 ボクは飛川さんの服装...