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今日もサヨリは元気です(笑)”012 雷電”

012 雷電 ボクはトビちゃんに訊きました。「ねぇ、トビちゃん。お空に飛んでるのはなんですか?」「わたしは雷電らいでん、十蔵さんはヤマト。あれはね、ここに住む人たちが、生きている時に好きだったものなのよ」 空を見上げると、ラーメンどんぶりがUFOのように飛んでいます。「サチさんは?」「サチさんは、スーパーマンみたいに、乗り物なしで飛んでいるわ。旦那さんをお迎えに行ったら、旦那さんと手を繋いで飛ぶんだって。ロマンチックよねぇ」「手を繋いで飛ぶなんて、サチさんらしいね。カッケーです」 僕は天高く、空を飛ぶサチさんの姿を頭の中で描きました。「そうそう……お月さまからのお荷物が届いてますよ」 トビちゃ...
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今日もサヨリは元気です(笑)”011 兄さん”

011 兄さん「サヨリさん、おかえりなさい。チョコちゃんとお友だちになれた?」 散歩から戻ったボクに向かって、トビちゃんが両手を広げます。迷わずボクは、トビちゃんの胸ポッケの中に入りました。この中に入ると、なぜだか心が和みます。「サヨリさま。自分、また遊びに来ても、いいっすか?」 チョコがボクを見上げて言いました……トビちゃんの前で〝さま〟だけは、やめてほしい。「チョコちゃん。サヨっちで、ええんやで」 ボクは笑って言いました。チョコはしばらく考えて「分かったっす。だったら、兄貴で構わんでっしゃろか?」 クスクスとトビちゃんが笑っています。なんだか面倒くさくなったので「せめて兄さんで」 と答えま...
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今日もサヨリは元気です(笑)”010 地獄”

010 地獄「地獄は辛いところよ。とても辛いところなの。それでも聞きたい?」 ボクとチョコに、サチさんが凄みます。チョコは怖くなったのか、ボクにピッタリとくっつきました。顔が……近い。ボクはサチさんに問いかけます。「虹の橋から、ここへ来る道中で、大きな穴がありました。真っ暗で底が見えないほど、深い穴がありました」 すると、チョコが口を挟みます。「自分も、ヤマトから見たっす! でっけぇー穴。見たっすよ!」 チョコは、怖いもの見たさが勝ったのでしょう。かなり興奮しているようでした。「そうそう。あの穴が地獄の入り口ね。偶たまにね、大きな蜘蛛くもが巣を張って、地獄に糸を垂らしてるわ。芥川龍之介って、き...
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今日もサヨリは元気です(笑)”009 大往生”

009 大往生 ボクの先達せんだつさんが人間だと知ったチョコは、ボクの前でひれ伏しました。その理由が、ボクにはさっぱり分かりません。「サヨっ……いいえ、サヨリさま。大変なご無礼をお許しください。自分、不器用ですから……」 さっきまでの威勢は、どこへ行ったのでしょう……チョコがあたふたしています。その大変貌に、ボクの方が困ります。「いや、チョコさん。サヨっちでいいと思うよ」 ブンブンと、チョコは首を横に振ります。「滅相もないっすよ、サヨリさま。自分に〝さん〟付けなど不要です。チョコとお呼びください」「じゃ……チョコちゃんで」「自分は、サヨリさまと出会えて、光栄っす!」 言葉遣いまで別人です。「サ...
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今日もサヨリは元気です(笑)”008 四十九日”

008 四十九日「はぁ……そこからですか? ほんと、あんたの先達せんだつさんは雑だわぁ」 チョコは、四十九日を知らないボクに、深いため息をつきました。ボクの先達さんは、雑なのだそうです……。「ウチらはね、これからここで、四十九日を過ごすのよ。その間に、三つの選択肢から、ひとつだけ選ぶの」「何を?」「天国か、転生か、このままこの場に居残るか―――どれにするかを、決めるのよ」 チハルにそんなの聞いてない……。「どうして?」「それがここの決まりだからよ。ウチは天国に行くって決めてるの。生まれ変わっても、ヒカルちゃんに会える保証がないからよ。ここに残っても、その可能性は同じだし。で……サヨっちは、どう...
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今日もサヨリは元気です(笑)”007 黒猫”

007 黒猫 天国の待合所は、地平線の先まで緑の絨毯じゅうたんで覆われていて、所々にお花が咲いていて、巨大な公園のようでした。広い湖を囲うように、所々に白いベンチが置かれています。待合所の人たちは、湖を眺めたり、談笑したり、空を眺めていたり、寝ていたり……。動物たちも自由に走り回っています。 トビちゃんの家から、歩いて三つ目のベンチの上に、チョコがぴょんと飛び乗りました。そして、姿勢を正してボクを見ます。僕はベンチの上のチョコを、下から見上げています。なんだか、見下されてる気がします。「サヨっち、十蔵じゅうぞうちゃんを誤解してない?」 チョコが僕に言いました。「誤解って?」「ウチの十蔵ちゃんと...
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今日もサヨリは元気です(笑)”006 イケメン”

006 イケメン 水面みなもに映るボクの顔が、お父ちゃんの姿になりました。段ボール箱の中で眠るボクの頭を、お父ちゃんが撫でています。「ボクはここだよ!」 お父ちゃんに向かって、何度も何度も叫んだけれど、ボクの声は届きません。向こうのボクの頭をお父ちゃんが撫でると、トビちゃんが、代わりにボクの頭を撫でてくれました。「お月さまはね、最後のお別れをしているの。サヨリさんの段ボールの中。毛布とプールとカリカリとちゅーる。あんなにいっぱい……雷電のプラモまで。あれは、サヨリさんへの贈り物よ。もうすぐ、ここに届くからね。楽しみに待ってようね」 トビちゃんが、優しくボクに言いました。お父ちゃんは、静かに段ボ...
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今日もサヨリは元気です(笑)”005 天国の待合所”

005 天国の待合所 ワシが乗る雷電と、子猫が乗った戦艦ヤマトは、並んで同じ野原に着陸した。どうやらここが、トビちゃんが暮らす場所らしい。 広い野原の真ん中に、大きな湖が広がっている。その水面を覗き込む人の姿もあった。ほとんどが人間じゃったが、ワシと同じ猫も、犬も、馬も、牛も……鳥や亀の姿もあった。「お疲れでした、サヨリさん。あそこが、わたしのお家です」 トビちゃんの指さす方に、大きな木が立っている。「ここは、朝も昼も夜だって。いつもぽかぽかで、雨が降ることもありません。だから、木がお家なの。ほら、みんなのお家も同じでしょ?」「ここは、どんな人が集まっておるのじゃ? さっきの様子じゃと、同じ目...
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今日もサヨリは元気です(笑)”004 トビちゃん”

004 トビちゃん───死ぬるーぅぅぅ。絶対、死ぬーぅぅぅ!!!! ワシは今、虹の橋のてっぺんから、地の底に向かって落ちておる。チハルは地獄などないと言うておったが、このまま落ちれば地獄じゃろう。もしかすれば、チハルはあの世のペテン師じゃったのかもしれないのう……。 人間を信じたワシは、己の愚行に苦笑しながら、地の底へ向かって落ちていた……。「お待たせしましたぁ~。トビちゃんだよぉぉぉ」 ワシに向かって飛んでくる、雷電らいでんのコクピットの窓が大きく開く。そこにパイロット帽をかぶって、ゴーグルをかけた女の子が、両手を広げて立っておる。ワシは思った。トビちゃんは、チハルよりも美人じゃのぉ……。ゴ...
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今日もサヨリは元気です(笑)”003 橋のてっぺん”

003 橋のてっぺん どれくらい走ったじゃろうか? 近いような、遠いような……。この橋のてっぺんから、トビちゃんの名を叫べばよいのじゃな。簡単じゃ。巨大な虹の袂たもとで、ワシは気合を入れ直し、足取りも軽く一気に駆けた――― こ、こ、こ。ここからワシが飛び降りるのか? 腰を屈かがめて橋の下を眺むれば、そこは底なしの沼のよう……猫でも分かる。落ちたら死ぬのに決まっておる。どれくらい考えたじゃろうか? ガタガタと震えながら、ワシの腰は引けておった。「やっぱりでしたか! サヨリさん。震えているじゃありませんか、へへへへへ」 ワシの背後にチハルがいた。なんて意地悪そうな笑顔なんじゃ……。「びっくりしたぞ...
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今日もサヨリは元気です(笑)”002 虹の橋”

002 虹の橋 月に吸い込まれるように、ワシの体がグングン昇る。それがとても気持ち悪い。それは、若き主あるじが操るマウンテンバイクのようじゃった。リュックの中で、どんなデコボコ山道でも恐るるに足らんワシじゃったが、老いには勝てぬぅぅぅ―――ぐうぇぇぇ! 何がちょっとだけじゃ! 謀はかりおったな、チハルぅぅぅ!「死ぬう―――」「サヨリさんは、もう死んでますってぇ―――」 しばらくすると、雲の彼方にぽっかりと、大きな虹が浮かんで見えた。ワシとてブロガーの端くれじゃ。ブロガーなら、この虹を見れば誰でも思うわ―――こりゃ、映ばえる。「これが……主が言うっておった、虹の橋か?」「そうですよ。橋の向こう側...
雑談

新春2025

新年あけましておめでとうございます。 旧年中はお世話になりました。 本年もよろしくお願いいたします(笑) こちら高松は晴天の穏やかな一日でした。 皆様のお正月は如何でしたでしょうか? このお正月には楽しみがありまして、冒頭の本がそれでして、マイブックは相棒からの書籍の中にあった一冊です。太宰、三島、芥川に諭吉……それに現代の書籍をパラパラとめくっていると、マイブックの中が真っ白でして……何ごとぞ? っと、輝く白さにフリーズしてしまって、イチゴアイスを食べたらメロン味だったくらいの衝撃がありました。出版社の印刷ミスすら疑いました(汗) ぐっと裏表紙を眺むれば───〝マイブックには、日付と曜日しか...
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今日もサヨリは元気です(笑)”001 ワシが死んだ日”

001 ワシが死んだ日 つい……うっかり眠っておった。 ワシの名はサヨリという。主あるじとの付き合いも、かれこれ二十年ほどになるのかのう。ワシもすっかり年老いて、今じゃ、立つのもままならぬ。にしても……ワシの体が浮かんでおるようじゃが? あれはなんじゃ? 主がワシを抱きかかえておるようじゃが? はて……ワシもついに、ボケたかのう。もう一匹のワシがおるとは……。「ボケてなんていませんよ。つい、うっかり、ついさっき。サヨリさんは死んだのです」 ワシの前に少女がおった。大きな丸眼鏡をかけた人間じゃった。気のせいか、少女の体も浮いておる。「人間のお嬢ちゃん。年寄りに冗談を言うもんじゃない。寿命が縮んだ...
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今日もサヨリは元気です(笑)”000 出会いと別れ”

000 出会いと別れ―――猫は飼い主を選んで姿を現す。飼い主に寄り添い、支え、癒やし……その短い生涯を終える。飼い主から、深き愛情を受けた猫は、毛皮を着替えて転生し、再び飼い主の前に現れるという……。「ア、アっ」 夏の雨の日、夏期講習の帰り道。俺は猫に呼び止められた。猫ってのは昔から「ニャー」って泣くもんじゃねーの? その独特な鳴き声に、俺は心底驚いた。くっきりと猫の額に描かれた〝M〟の文字も個性的。たぶんこの柄は、キジトラだったと記憶している。猫は俺に近づくと、足元に顎あごを擦こすりつけ、俺を見上げてを繰り返す―――その仕草に、俺の心臓がたゆとうた……「うちの子に、なっちゃう?」 猫は大きな...
雑談

本年もありがとうございました(2024)

2024年は大詰めで、2025年は目前で。このままじゃ、愛猫サヨリの小説が投稿できないじゃないかという、瀬戸際の大みそか。読者の皆様におきましては、楽しい年末をお過ごしのことだと思います。本年も大変お世話になりました。心より感謝しています。ありがとうございました(笑) 年内に一本だけでも。そんな思いでようやっと、新作一話目の投稿準備が整いました。すまぬなサヨリ、お父ちゃん遅筆ちひつで。当初の目標だった、四九日には間に合いませんでしたが、このギリギリでサヨリの手土産が書けました。今夜八時のお披露目です。その題名は───ジャガジャガジャガジャガジャン! 今日もサヨリは元気です(笑) では、裏話をば...
ショート・ショート

吾輩だって猫だった

人は神様の自分勝手な気まぐれを〝奇跡〟と呼ぶ。 もしも生まれ変わりがあるのなら、猫でよろ……。死に際に老人はそう願い、その長き人生を終えた。かつて、この老人と暮らした猫がいた。息を引き取るその日まで、自由奔放に暮らした愛猫に、老人は憧れを抱いたのだろう。その猫の微笑むような死に顔は、水色の夏空のように清々すがすがしかった。「そうなれば、いいですね。へへへへへ」 老人を迎えに来た死神は、そう言って笑った。「お主の行き先はここじゃ」 そう言って産神うぶがみは、新たな未来の扉を開いた。老人は産神の声に従って、扉の中へ身を投じた。扉の向こうは暗闇のトンネルのようで、遠い先に光が見えた。老人は、光に向か...
雑談

胆力を得た

ようやっと、2024年から解放された。一週間ぶりにキーボードを叩く。ブランクあれど、指は快適に動いている───問題ない。 それはたぶん、パソコン(富士通FM-7)を手に入れた高一の春以降、人生初の体験だった。脳みそを一旦白紙。心のリセットを試みたのだ。───力ずく…… 端を発したのは、若い衆の一言だった。先週で年内の仕事に目途がつくはずだったのに、バディからの泣きが入る。ドラ泣きだ。「年末までやってくれるやろ?」 はぁ? 僕の沸点を軽く超えてきやがった。突然のバディの言葉に言葉を失う。貴様は鬼か? それとも阿呆あほうですか?「はぁ?(小説が書けねーじゃん!)」 静まり返った事務所の中で、やるや...
畑の話

このままじゃ、畑が笹にやられてしまう……

───大変なことになってしまった……。 再々、冬の畑に行くことはないのだが、年内にやらねばならぬこともある。シンジ君の「僕がエヴァに乗ります!」しなければ……きっと来春。地下から忍び寄る脅威によって、畑がとんでもないことになってしまうのは、火を見るよりも明らかだ。地底を蝕む厄介者───笹の駆逐作業である。こやつらが拗こじれる前に手を打たねば、畑が笹軍団に実効支配されてしまうのだ。年末でなんやかんやあるけれど、これはもう、自分を諫いさめながらの〝時は来たれり!〟なのである。 異変に気づいたのは、この九月にまで遡らなければならない……畑を始めてから去年まで。幾分かの笹の存在を確認していた。けれど、...
小説の話

七福神のお菓子でエネチャージ!

───あら、可愛い。 先日、とあるブログの読者の方からお菓子をいただきました。銀座七福神と七福神あられ。そのパッケージに描かれた七福神のイラストだけで、ほっこりした気分になります。カレンダーは数量限定で貰えるそうで、本来の予定よりも早く購入されたそうです。ひと足早いクリスマスプレゼントに、うれしいやら、有り難いやら……書き手冥利みょうりに尽きるとは、このことです(笑) 愛猫サヨリが旅立ってからというもの、ブログの更新頻度は落ちているのに、せめて週に2,3本は……そう思いがらも、上手くことが運びません。なんだか、それが申し訳なくて。お礼と近況報告を兼ねて、この記事を書き始めました。 日々の更新を...
畑の話

大根の試し採り(2024)

2024年12月12日。 去年の大根は、葉っぱを根こそぎ虫に食われて、それはもう散々でした。葉っぱがないから育ちやしない。この冬も気温の高い日が続きます。つまり、期待値はかなり低くて、それでも、ふたつの畝に大根の種をまきました。きっと虫の餌食だな、夏野菜もしっかり虫に食われたし……その絶望的な予測に反して、今年の葉っぱは───めっちゃ元気です(笑) 畝を隠すように覆い茂った葉を見るだけで、大根への期待が爆上がりするのも、これもまた、野菜の価格高騰の煽りを食らった僕にとって、朗報以外の何物でもありません。つまり、この冬は大根買わねぇ! それだけでも有り難く、出汁をしっかり吸い取った、おいしいおで...