ショート・ショート『上手なスイカの割り方』

小説始めました

 金鳥の夏、日本の夏。

 茹だるような猛暑が続く。あ~、スイカ食べたい。冷蔵庫にシャリっ娘スイカ、残ってたっけ? 思い返せば、昭和の夏はぬるま湯だった。新作締め切りに追われながら、僕は短編ホラーの構想を練りはじめた。

 夏と言えば怖い話。ホラーと言えば、オブ・ザ・デットに決まってる。みんな大好き貞子タン♡ そんな、ジャパニーズ・ホラーだって嫌いじゃない。けれど、リアルの追求ならゾンビ一択じゃ。ゾンビ人気も下火じゃないし、今日もサヨリは元気だし(笑)

 ゾンビの魅力はゾンビにあらず。

 逃げる者、泣く者、絶望する者、そして戦うおとこ

「よし、ゾンビ書こ!」

 漢、細魚サヨリ、急な男なんです。

 有事、非常時、緊急時。人間とは何をやらかすの生き物なのか? そのシミュレートがゾンビ作品の醍醐味である。ゾンビに追われる人間描写で作品の価値が決まってしまう。それはアナタも同じでしょ? そして、ゾンビ作品において共通テーマも決まっている。

 最も恐ろしいのは人間である。

 どうやって、この結論へと導くか? その描写にこそ、作者の力量が問われるもの。もしくは、作者の人間性と呼ぶべきか? つまり、作家にとってのゾンビとは、常に公平なお題なのだ。

 サイコパスな僕ならベタを書く。

 学校、病院、ホームセンター。閉鎖された空間が最もゾンビに適している。どんなストーリーを描いても、結局、この何処かへ逃げ込む事になる。僕なら船に乗って海賊王を目指すけれど。そうなれば、人の営み全てがアドベンチャー。ゾンビ要素を加味するだけで一寸先が闇となる。

 トイレ、トイレ、トイレ!

 ゾンビとの死闘の末、ようやくトイレのドアノブに手が届く。このドアを開けばバラダイス。我慢からの解放に力任せにドアノブ引けば、便座でゾンビがこんにちは(笑) その絶望感たるや貞子の比ではないだろう。普通に漏らす。

 その小さな積み重ねの中、物語は核心へ向かってひた走る。ゾンビものに原因や結果は不要である。結論付けさえしなければ、デット・オブ・たかしに終わりはないのだ。ゾンビ作品が途切れないのは、大人の事情も一枚噛んでる。一度、当たればドル箱ウハウハなのだ。それを終わらせる方がどうかしている。

 僕なら舞台を学校に決める。

 だってそうでしょう? 登場人物が学生だから。なんだかんだ言ったって、ゾンビを見るのは若者たちだ。感情移入をさせるなら、わざわざ学校以外の選択肢って…ある?

 敷地から出られないように、学校回りは政府機関にでも閉鎖してもらおう。上空にはテレビ局のヘリでも飛ばして。もう、これで逃げられない。全体像はヘリからの映像で確認できる。当然、校内ではスマホからの実況も始まる。しっかりと、再生回数を稼ぐがよい(笑)

 この設定から物語をはじめよう。

───校庭の回りが騒がしい。

 オレの教室は三階にあった。窓から外を見渡すと、パトカー、消防車、救急車が無数に見えた。火事なのか? 

「生徒全員、教室で待機するように」

 校内放送から指示が出される。あの声は、体育のゴリだな…担任の須藤は、ずっとスマホで話している。オレたちの高校は県下有数の進学校だ。だから、校内へのスマホの持ち込みは禁止であった。つまり、情報源は須藤のスマホだけに限られた。

「もしかして、これ、またあのテストじゃね?」

 誰かが言った。

 その可能性も否めない。この状況下での行動が試されている可能性だってある。去年の体育祭の日だって、火災報知器鳴らされたもんな。パニクったやつらは、みんなまとめて、別のクラスに放り込まれた。今日だってそうだろう。あのクラスだけが大騒ぎになっていやがる。

 ドドドドドド…

 数名の男子が脱走し、階段めがけて廊下を走り去ってゆく。どうして奴らは、ああなのかねぇ。

「あいつらバカだな」

「もう退学だな」

「ところで、お前、剣道何段だっけ?」

「三段だけど?。お前こそ、今年は甲子園に行けそうなのか?」

「この金属バット、飛ばねぇんだよなぁ~ボール(笑)」

 互いに苦笑しながら様子を伺う。それは、誰にでもある青春の一ページ。これから始まる地獄を知らずに。今思えば、オレたちの方がバカであった。

「おい、金属バット、金属バット!」

 あの時、オレは必死だった。トイレから戻った担任須藤が狂ったように暴れはじめた。それと同時に悲鳴が上がる。オレたちの教室だけじゃない。校舎が奇声で揺れていた。この状況はテストじゃない。その瞬間、教室の誰もが直感した。

 担任の須藤ちゃんがゾンビになったと。

 それがオレに向かって走り寄る。もはや、穏やかだった国語教師の面影もない。大きく口を開く形相は化け物だった。こんなのに噛みつかれたらタダでは済まない。オレとの距離あと1メートル。オレは隣の椅子を蹴り上げた。それに絡まり転倒する須藤ちゃん。

「それ、三段!」

 そのすきに手渡された金属バット。上段の構えから、オレは金属バットを思いっきり振り下ろした。

───こう割る。

 ショート・ショート『上手なスイカの割り方』完

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