短編小説『邂逅(001パンドラの箱)』

小説始めました
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 まだ幼き読者からのリクエストにお応えしてショート・ショートを書き始めた。案を練り、考察し、書き始めるとショート・ショートでは無理だと気づく。圧倒的な尺足らず。さらに、今週のハードスケジュールに僕の体力が持つかどうかで、今日もサヨリは元気です。

 不安満載の日曜日。サザエさんシンドロームも相まって、書けるところまで一気に書いて、小分けに出すことで手打ちにした。短編小説の題名は『邂逅(かいこう)』にした。その意味は数日後、明らかになる予定である。少しだけ長丁場になります。

 よろしければお付き合いくださいませ(汗)。

『邂逅』001パンドラの箱

 新生活初日。

 日曜日の朝。部屋のカーテンを開くと富士山が見えた。デッケーなぁ、カッケーなぁ。富士の美しさに目を奪われていると、隣の家から女の子が出てきた。ボブカットに作業服。肩に担いでいるのは釣り竿らしい。自転車で家から二十分ほど走ると海があるとか。この地区では、女子も釣りをたしなむのか。まぁ、オレにはそんなの関係ない。明日は転校初日、いろいろ準備しないといけない。殺風景な部屋の中。富士のように積まれた段ボール。その山から高校生活に必要な荷物を整理しないと。今日のオレは忙しいのだ。

 登校初日の朝。部屋のカーテンを開くと富士山が見える。デッケーなぁ、カッケーなぁ。富士の美しさに目を奪われていると、昨日と同じく隣の家から女の子が出てきた。ボブカットに作業服。肩に担いでいるのはくわですか。畑を耕すアレですね。

 あの日から。姿を見る度、何かを担いで何処かに向かう少女であった。名前も知らない彼女のことを、ボブとオレは呼んでいる。いつ見ても、テテテテテな感じで騒がしく思えた。お隣さんとは言っても、学校も違うし話すことすらないだろう。あの日まで、オレは本気でそう考えていた。

 オレの母親は社交的である。隣の奥さんともあっという間に親しくなった。ママ友どころかマブダチだ。マブダチから得た情報は、鮮度を損なう間もなく食卓に並べられる。ボブ情報もそのひとつ。彼女の人生プランが数ミリずれれば、今頃は、FBIやCIAで勤めていたのに違いない。

「あんた、隣の娘さんって進学校に通ってるんやって。成績は常にトップらしいで。東大行くんとちゃうやろか。それに引きかえ、あんたはなぁ。昨日、初めて見たけど、色白のベッピンさんやったでぇ。あんたなんか話しかけても、もらえへんなぁwww」

 wwwじゃねーよ。

 オレの母親は、敵にすると厄介だけれど、味方にしても厄介である。そうだよ、そうだよ、あんたの息子は馬鹿っすよ。こいつの親の顔が見たいものだ。すぐ目の前にいるけどな。

「ただいまぁ」

 親父が帰宅すると、まったく同じ話が始まった。昼はお仕事、夜は母の話し相手。朝から夜までお疲れ様っす。じゃ、おいらは部屋の整理があるので撤収、撤収。

 親父の前で、成績の話を蒸し返されたら堪ったもんゃない。オレは早々に、自分の城へと引きこもった。引っ越し荷物の整理も終わっちゃいない。けれど、十個ほどあった段ボールもこの数日で先が見えた。残った箱、その中に記憶にない箱が一個あった。謎の小包。そこに貼られた送り状の受取人はオレと同じ名字の知らない名前。差出人は、知らない女性の名前が書かれていた。発送日を見て驚いた。二〇二三年だった。コイツはお宝の香りする。

 興味本位で小包を開く。中にあるのは五冊のファイルと黒いケース。あと、野菜作りの本と猫の本。そして、小説が何冊か。黒いケースを開くと、折りたたみ式の小さなパソコンのような機器があった。それと二通の茶封筒。その機器を取り出して電源ボタンを押してみた。やっぱりな……起動しなかった。壊れてるのかな? 今や音声入力が主流の時代である。キーボードすら珍しい。オレの興味は封筒に向かう。もしかしたら、お小遣いが増えるかも。誰だか知らないけれどありがとう。

 さてさて、鬼が出るか蛇が出るか?

 手に取った封筒を開けようとした瞬間、背中に強烈な視線を感じた。富士が見える窓に目をやると、目に飛び込むのは双眼鏡のレンズであった。え、ラノベでもこれはない。ボブがオレの部屋を覗いていたのだ。食い入るようにガッツリと。その瞬間、都会の恐怖を垣間見た。

 この人はやばい人や。

 進学校の学年トップつーたって、この行動は怪しすぎる。そもそも何で双眼鏡を持ってるの。いくらベッピンさんでも関わっちゃまずい。やっぱこっちは都会だな。高校卒業したら速攻で四国に帰ろう。都会の絵の具に染まる前に。オレは無言でカーテンを閉じた。絶対、ボブと目を合わさぬように。

 では、作業再開。

 封筒の中身は手紙であった。マネーの夢は砕け散る。三枚の手紙の二枚半は野菜の話。残りの半分には秘め事が書かれていた。どうやら、この男。不倫をしていたようである。これは由々しき問題である。女の敵だ、許すマジ。

 両親に相談しようとも考えたのだけれど、残った封筒にに目を通して事情が変わった。オレはパンドラの箱に手を掛けてしまったようである。さらに五冊のファイルに目を通すと、とんでもないドラマがあった。高校生のオレでも分かる。こいつはおいそれと相談なんてできない代物であることを。途轍もなく重くて哀しい、純愛そのものが語られていた。

 翌朝、家の前でボブと鉢合わせた。不覚にも、一瞬、ボブの美貌に目を奪われた。けれど、昨夜の今日で気まずい空気が流れている。その場を誤魔化すように朝の挨拶をする。いつの時代でも困ったら挨拶だ。

「おはようございます」

 挨拶は生活の基本である。挨拶さえしておけば、すんなりとこの場から解放される。オレはそう信じていた。

「おはようさん、お隣さん。なんかねー、以前、私と会ったことなぁ~い?」

 出会って秒で、何を言い始めたんだこの人は。くわを担いだ美少女の前で、オレの時間が凍てついた。

短編小説『邂逅かいこう』全12話

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