短編小説『邂逅(あとがき)』

小説始めました

邂逅かいこう』あとがき

 わたしをそれに巻き込み───

 ついでそこから救いだした

 タビーに捧げる

 これは、スティーヴン・キングのホラー小説、『キャリー(1976)』の冒頭に書かれた言葉である。

 タビーとはキングの妻の名前である。ゴミ箱の中のボツ原稿を拾い上げ、面白いからとキングにタビーは原稿の続きを書かせようとした。しかし、主人公は思春期の少女。その微妙な心情をえがくことが彼にはできない。当たり前だ、男だもの。それを妻に告げると『私がここにいるじゃない』そう彼女は微笑んだ。これが、後にモダンホラーの帝王と呼ばれる男の門出となる。

───良いなぁ、こんなの。

 僕はこの逸話がもの凄く好きである。そして、羨ましくも思っている。素晴らしき理解者の存在を。でも、そんなのは夢のまた夢。自分には関係のない話。そう思いながらブログを書いていた。独りよがりの孤独であった。そんなある日、僕のブログに熱心な人物が現れる。あまりの熱量にロマンス詐欺を疑ったくらいだ。僕の書くことすべてを肯定し、考察し、記憶し、共感してくれる人であった。僕のブログを僕よりも知り尽くしている人であった。

───僕の小説を望んだ人でもある。

 そんな彼女の知人から、物語のリクエストが入る。オーダーは、輪廻転生システムのラブロマンス。僕には、輪廻転生は難題である。目が覚めたら誰かになっていたとか、魔法の力で転生できたとか、その経緯は伏せてしまうとか……。数限りない手法があるのだけれど、どれもこれもがしっくりこない。

 どうやったら転生できるんか?

 そもそも小説なんて書けるんか?

 安請け合いしてよいものか?

 それにつけてもサヨリは可愛い(笑)

 そんなを考えながらも、温めていたイメージを思い描く。少年と少女が海で散骨するシーンである。僕が見た数少ないドラマの中に『世界の中心で愛をさけぶ』という作品がある。

───俺が死んだら、俺の骨をまいてくれ。

 これが主人公、朔太郎の祖父が孫に頼んだセリフである。おい、爺さん。婆さんの立場は? テレビ画面に突っ込んだ記憶ある。けれどその時、ひとつのシーンを思い描いていた。勝手に思い描いたラストシーン。

───夕暮れ時、少年と少女、防波堤。

 朔太郎の孫が彼女と海で散骨を実行する。防波堤に座る朔太郎が誰かに背中を叩かれる。振り返ると懐かしの人さし指。朔太郎に微笑む亜紀。夕暮れ設定と孫の登場以外はドラマのラストと同じである。

 このイメージだけを足がかりに、オーダーを受けた夜。短編小説『邂逅』を書き始めた。とはいえ、ノープランの行け行けドンドン。我ながら思い切ったことをしたと今でも思う。

 翌日、一話目を投稿し、登場キャラクターを考えながら三話まで突き進む。一話で篤が生まれ、二話でリンが生まれた。三話で終わらせるつもりが終わらない。実質、他の登場人物もエピソードも後付けである。今、読み返せば矛盾もある。こっそり直そう……。人物が増えればエピソードも増える。時代設定を未来にしたものだから、尚更、頭の中がこんがらがった。第八話『まほろば』まで探り探りの執筆だった。そして最後まで難題が残る。

───篤が曾爺ちゃんの生まれ変わり。

その根拠が見つからない。見つけなければ終われない。このままではアベンジャーズくらい物語りが続いてしまう。斉藤さんが活躍しちゃう。斉藤さんじゃ全米が泣かない……。

───それに加えて一日一話。

 24時間縛りがジワジワと効いてくる。ドラえもーん、助けてよぉ~。そんな便利なロボットはうちにはない。だから最悪、通常ブログに戻す手も考えていた。所詮はブログ。そんな甘えもあった。けれど、運命はそれを許さない。

───『毎日読んでいます。次回がとても楽しみです』

 こんなメールを貰ったら嬉しいじゃん(笑)。ない知恵絞って先へ進もう。こじつけながらも前に出る。着地点が決まったのは、最終話を書きながらであった。頭の中に友の雷電が舞い降りなければ未だに物語は続いていた。少なくとも、十三話で終わらせるつもりは一切なかった。13では数が悪い。僕はそこら辺を気にする人だから。

 『邂逅』は、十二月発表予定の『本丸(仮)』の形を変えた平行世界の物語である。登場人物、設定、ストーリー展開は全くの別物。時代も登場人物も全く違う。それゆえ『邂逅』を深読みしても『本丸(仮)』の予測は不可能である。これはこれ、それはそれ。全てのプロットが決定している『本丸(仮)』を書きながら、僕には根本的な不安があった。

───果たしてこれは小説なのか?

 知識も、技量も、経験も、感性もない僕だから、頻繁にその不安に襲われる。だから、ショート・ショートで様子を見ていた。リクエストにお応えして『邂逅』を書いたのだけれど、それも『本丸(仮)』への足がかりの意味が大きい。今僕は、小説っぽいものを書いているのにすぎない。だから、何らかの反応が欲しかった。自分の立ち位置が知りたかった。それもこれも、偶々うまく巡り逢った人からの助け船だと信じて書き始めた。だから題名を『邂逅』にした。昨今、僕には不思議なことばかりが続いている。だから当然のように船に乗った。そして昨夜、『邂逅』を投稿し終え審判の時を待つ。

 ほんの数時間前、依頼者からのメッセージを読んだ。最高のお褒めの言葉だった。それだけで十分だと思った。それ以上を望む必要はないとも思った。我ながら上出来である。友人への小説を書きながら、明日からは平常ブログに戻ります(笑)。

短編小説『邂逅かいこう』全12話

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