ショート・ショート『ループ』

アナログ時計
小説始めました

 同じ時間を繰り返す。そんな錯覚に陥った事があるだろうか? その特異点をループと呼ぶ。それは、同じを繰り返す存在。今日、僕は、そのループと出会ってしまったようである。

 仕事と仕事の空き時間が二時間も出来た。

 バディの単純ミスのせいであった。とは言え、相手はレベル70オーバー。レベル50がどうこう言える問題でもない。僕は、日陰を見つけて駐車した。そこで長丁場の暇つぶし。はっきり言って無駄である。

 レベル70の世界とは、今の世界とは勝手が違う。アナログしか存在しない世界なのだ。これまでどれだけの人材が、バディの術中にはめられて来たか。ハマればお陀仏。気の抜けない相手。それがバディの本質である。とは言え、午前の疲れと相まって、僕は、ウトウトとし始めた。

「明日の現場、どこ?」

 バディは明日の予定を聞いてきた。

「商店街の飲み屋っす」

「居酒屋?」

「ブー」

「キャバレー?」

「今、キャバレーってあんの?」

「知らん。そう言えば、子どもの頃にテレビCMやってたわ。愉快なロンドン」

「知ってる、知ってる、愉快なロンドン。テレビで見たわ(笑)」

 昭和四十年代。午後十時を過ぎると大人のコマーシャルが流れ始める。クラブ、スナック、ラブホテル。子どもが見ても理解出来ないようコンプラも万全であった。幼少期、希にゴールデンタイムにそれらのコマーシャルが流れることがあった。両親は何も語らず、僕もボーッと見ていた記憶が残っている。

「ハワイもあったなぁ」

 バディのパンドラの箱が開いたようだ。ニヤニヤしながら語り出す。僕も知らない話でもない。年長者に合わせるのもお仕事です。

「ちょっとハワイまでのやつやろ(笑)」

「そうそう。あの頃、夜の街は賑やかだったなぁ」

 バディはイノセントな目をして空を見上げた。

「何で暑いんやろ?」

「夏だからとちゃう?」

 急に話が飛んでしまう。これも日常茶飯事で、今日もサヨリは元気です(笑)

 驚いてはいけない。

 暑いの話はどこへやら、バディは胸ポッケから紙切れを取り出した。お得意のナンクロである。鉛筆片手にゲームをはじめるようである。九×九、八十一マスとの睨めっこ。午前の疲れと相まって、僕はまた、ウトウトとし始めた。

「明日の現場、どこ?」

 バディは明日の予定を聞いてきた。

「商店街の飲み屋っす」

「居酒屋?」

「ブー」

「キャバレー?」

「今、キャバレーってあんの?」

「知らん。そう言えば、子どもの頃にテレビCMやってたわ。愉快なロンドン」

「知ってる、知ってる、愉快なロンドン。テレビで見たわ(笑)」

 まんまと僕はバディの術中にハマってしまう。レベル70が特異点。ループの世界、繰り返しの魔境、抜け出せぬ沼。約束の時刻まで、5400秒。僕は、己の意識を維持できる自信がなかった…

 午前の疲れと相まって、僕はまた、ウトウトとし始める。

「明日の現場、どこ?」

 それ、何度目?

コメント

  1. わたし、ヘルパーの時に
    毎回名前聞くおばあちゃんいたよー。

    毎回新鮮^ ^

    • コメントありがとうございます。
      ショート・ショートのテイで作り話のように書いていますが、
      現実に起こると慣れるまでに時間が掛かりました(汗)
      みんないづれそうなるのでしょうけれど(笑)

    • ごめん名前忘れた。
      ヘルパーの話は
      ココでした。

      暑さでうっかりしてた^ ^

      • そんな気がチョッとしてた(笑)

  2. 身近にあるループですね。僕の職場の最高齢の方は今でも「出身どこだっけ?」と聞いてきます。入社初日に聞かれて以来ずっとです。覚えてないのか、そこはツッコミかボケが返すべきなのか? それとも僕の訛りが抜けていないと遠回しに指摘しているのか? 深く考えないようにしてループしています…。

    • 同じことを繰り返されると
      こっちがデジャブなってるのか思ってしまいます(汗)

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