日曜日(ブログ王スピンオフ)

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ツクヨの父の日

今日は、六月第三日曜日───全国的に父の日である。  父の日だからって、我が家の夕食はいつもどおりだ。かろうじて、母の日の名残りはあるのだが、父の日はごくありふれた日曜日。けれどツクヨが我が家の一員となった今、状況が少し変わった。ツクヨには父と呼べる存在がいない。それを気遣い、お茶の間をピリピリさせていたのは、俺とオトンだけであった……。  口チャックにテレビまで消して、父の日情報を遮断する。父の日は───ツクヨに禁句だ。  いつものように夕食を始めると、思い出したように、ツクヨがテテテと部屋に戻っていった。条件反射で俺は訊く。 「アヤ姉、ツクヨは?」  トボけた感じでアヤ姉が答える。 「そっ...
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ツクヨのこと、どう思っているのかな?

午前零時のダイニング。  ドアを開くとオトンがいた。ニヤニヤしながら、ひとり淋しく缶ビールを飲んでいる。酒のつまみはイカの足。テーブルの上に350mlの空き缶が二本あった。つまり、手にしているのが三本目。飲み過ぎだ……。  左手に持つスマホには、ツクヨの写真が表示されている。今年のハロウィン、仮面ライダー2号のコスプレ。ツクヨがオッツーの好みに合わせたのだろう。オッツーのベルトを腰に巻いて、ご満悦のよき笑顔である。オトンのスマホは、ツクヨちゃんの詰め合わせ。それを眺めて、夜遅くにニヤついていたというわけか……健気だ。 「まだ起きていたのか? 受験勉強、がんばれよ」  す、すまん……そうじゃない...
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ツクヨの桃を召し上がれ

「お前もひとつ、選んでみるかい?」  じいちゃんの気まぐれがブランド商品を生み出した。  草刈り、摘果、袋掛け。五月に入ると親戚の桃畑が忙しい。昨今の人手不足と農家の高齢化問題とが相まって、中二になった俺にもお鉢が回る。日曜日なのに桃畑。脚立の上で桃の実を間引く。遊びに来ていたオッツーまでもが脚立の上で汗を流す。何か……すまんな、オッツーよ。  オッツーが行くのなら、コイツが来ないワケがない。もれなくツクヨも付いてくる。赤い長靴に麦わら帽子。一瞬で畑のアイドルの座を射止めたツクヨは、動物園や水族館にでも来たかのように、キャッキャと桃畑を満喫している。相も変わらず自由なヤツじゃ。  そこで、じい...
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聴講生 橙田飛鳥

───人の顔はひとつではない。  学生と聴講生。橙田飛鳥とうだあすかはふたつの顔を持っていた。それは、大した問題ではない。言い換えれば、女子大生と追っかけなのだから。高三の夏、オープンキャンパスで飛鳥が恋した彼は、理論物理学の研究者であった───ワタシは行く、彼の元へ! 飛鳥は名門T大を受験してサクラチル。それでも飛鳥はくじけない。桜は散れども恋は咲かせる。  K大への進学を決めつつ、同時に飛鳥はT大の聴講生の資格も手に入れた。ピカピカの聴講生証に飛鳥は誓う。先生の講義のすべて───ワタシはそれを受け切ってみせるのだと……。初講義にときめく飛鳥……にしても、異様に多い女子の数。それもそのはず、...
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ツクヨとオッツー、海の約束

───オレのお嫁さんになればいい……。  オッツー家からの帰り道、それをツクヨは思い出す。三縁さよりとオッツーとの三人で、釣りに出かけた夏の日を……。 「ねぇ、オッツー。わたし……どうおもう?」  ツクヨはおませな小三だった。 「可愛いぞぉ~」 「エヘっ!(笑)」  オッツーからの予期せぬ言葉に、ツクヨは頬を赤らめた。 「リュックのペコちゃんが」 「そう……ですか……」  気まずい空気が防波堤ぼうはていを駆け抜ける。気まずいのはツクヨだけ……。釣りに夢中のオッツーは、ツクヨの変化を気にも留めない。  一緒に来ていた三縁はというと、ツクヨをオッツーに任せっきりで、秘密のポイントで竿を振っている。...
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オッツー家のシチューの秘密

桜木とオッツー、アケミとゆき。そして、俺。   俺たち放課後クラブは、メンバーの誕生日が年中行事に組み込まれていた。転校生の桜木は小学からだけれど、他のメンバーは幼稚園からの幼馴染み。物心ついた時から誕生日祝いは当たり前だ。当然のように、ツクヨもその輪の中に入っていた。時は流れ、俺たちは社会人になり、ツクヨは中学二年になった。それでも、誰かの誕生日には、何処かで集まり誕生会をしていた……。  今現在、ツクヨに最も近い存在はアケミである。社会人になっても、アケミはBL小説を書いている。その表紙絵を飾るのがツクヨのイラストなのだから。同人誌イベントが近くなると、ふたりの情報交換が密になる。そして、...
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この手紙は、作家デビューへの架け橋ですよ

のんと楽しいクリスマスを過ごした翌年。地元大学への入学切符を手に入れた俺の元へ、青葉導人と名乗る人物から手紙が届いた。俺は思った───詐欺かもしれない。とてもじゃないけど、こんなの俺の手に負えない。だから、次の一手は決まってる! 桜木だ。俺は手紙を手に持って、ゲンちゃんうどんに桜木を誘った。この手紙が、俺の人生のターニングポイントになるとも知らずに……。 「ごめんな……桜木、上京の準備で忙しいところ。こんな手紙が来たんだけど……俺、バカだから手に負えなくて……」  桜木が俺宛の手紙に目をとおすと、ぱっと表情が明るくなった。 「こんな手がありましたか……」  明るい顔で意味深な言葉を口ずさむ。 ...
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オッツー家のシチューの謎

その日。オッツーは学校帰りに三縁の家でゲームをしていた。オッツーが三縁の家で晩飯を食べる。それは、彼らにとって日常のひとコマでもあった。ただ、オッツー家がシチューの日だけは例外であった。 「悪ぃ~な。俺、これからブログ書くから」  三縁は自分が使っていたゲームのコントローラーをオッツーに渡した。 「そっか。じゃ、ツクヨっちオレと格闘やる?」  オッツーは、それをツクヨの手に渡す。 「やるやる。きょうは、オッツーにまけない!」  三縁はブログを書き始め、オッツーはいつもの格闘ゲームでツクヨと対戦を始めた。その時すでに、幼きツクヨの格闘センスは、ゲームの天才の片りんを見せていた。  到底、三縁クラ...
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ゆい、初めてのホラ貝

中二の春。  のんとゆいは、二年でも同じクラスになった。それは偶然なのか? それとも、不登校だったゆいへ学校側からの配慮なのか? それは誰にも分からない。けれど、のんと同じクラスにゆいはとても喜んだ。 「またウチら同じクラスだね。よろしくね、のんちゃん」  ゆいの笑顔が止まらない。 「ほんとだねぇ。よろしくねぇ、ゆいちゃん」  のんも目を細めて笑みを返す。  一学期最初の席順は出席番号順であった。視力が弱いのんの席は、いつもと同じく教壇の前である。休憩時間になると、ゆいはのんの席で話しをする。お昼はのんと一緒に弁当を食べる。このスタイルは中一時代と同じまま。それがゆいにはうれしくてたまらなかっ...
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オッツーのライダースーツ

オッツーは待っていた、何日も何日も待っていた。 日曜日の午後の時間帯。ある男が道の駅で休憩する。そんな噂話を聞きつけて……。そこで、彼が自動販売機でコーラを買うらしい……雨の日も、風の日も、オッツーはひたすら彼を待ち続けた。あの人にオレはなる! そんな闘志を心に秘めて。  小6の夏休み。道の駅で張り込みを始めてから半年後。オッツーは、ようやく彼の姿を見つけた。それは、サイクロンで公道を走る仮面ライダーの雄姿であった。憧れの男を目にしたオッツーは、無心で彼の元へと駆け寄った。 「あの……初めまして。僕は尾辻正義と申します。半年間、ずっとアナタを待っていました」 「初めまして、半年も待っててくれた...
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昭和喫茶、来夢来人

「あれ? ツクヨは?」  じいちゃんが俺に向かって声をかけた。ツクヨを探して辺りをキョロキョロと見まわしている。 「ツクヨは、アケミたちとタピオカ飲みに喫茶に行ったよ。今日は畑に来ないよ」 「タビオカ?……ってのが流行っているのか?」  ツクヨが来ないと知ると、じいちゃんは残念そうな顔をした。 「タビじゃなくてピ! タ・ピ・オ・カ。なーんか、女子の間で流行ってるらしい……知らんけど。そういえば、あの来夢来人ライムライトって喫茶店。ずいぶん昔からあったらしいね?」  俺もタピオカの話を詳しく知らない。それよりも、ずっと昔から存在する喫茶店の歴史を俺は知りたくなった。 「来夢来人か……。先代の現役...
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ブログのアクセスを増やす方法

ゆきは密かに目論んでいた───静かに……その時を待っていた。わたしはブログの女王になるのよ……と。そう、新たなる自分を目指して、己の可能性を信じて、ゆきは高校デビューを画策していたのだ。  公園の桜の木の下で、それをアケミに語るゆきの姿があった……。ぽかぽかとした春の日差しに桜の花は満開であった。 「マ、マ、マジでぇ~! 私、ゆきちゃん応援するよ」  ゆきのビジョンにアケミの鼻息が荒くなる。アケミの瞳は、子どもがおもちゃを手にしたような、ギラギラした眼差しであった。 「だったら、これからサヨちゃんのライバルね!」  ゆきのブログに便乗して、アケミは遊ぶ気満々なのだ。 「そんなんじゃないわよ、ア...
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仮面ライダー運動会

5月の第3日曜日。  雲ひとつない青空の朝。アヤ姉は忙しかった。とても、とても、騒がしかった……てか、喧しいんじゃ! 日曜だってのに、オトンを交えた大騒ぎには理由があった。今日はツクヨの運動会なのだから。てか、俺の朝飯まだかいな……?  田舎の小学校の運動会は家族を交えて行われる。うどんにタコ焼き、焼きそばにポップコーン……縁日のように屋台まで立つのだから、さすがの俺も「昭和かよ?」って、ツッコミのひとつも入れたくもなるのだが、俺にも運動会の出番があった。オッツーが仮面ライダーに扮してヒーローショーを行うのだ。アケミとゆきの進行に従い、ライダー姿のオッツーが主役を張る。俺と桜木はショッカー隊員...
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さよなら忍ちゃん

ツクヨ、小二の春休み。  ツクヨの顔から、いつもの笑顔が消えていた。今にも泣きそうな顔である。俺はツクヨに問いかけた。 「どうしたぁ? 腹でも痛い?」  ツクヨは首を左右に振った。どうやら深刻な悩みらしい。 「お前、もしかして……いじめられてんのか?」  一瞬、ツクヨの瞳孔が開く。そうなのか? いじめなのか? 「忍ちゃんが……」  毒舌の、あの子ならやりそうだ……。いじめだろうか? 喧嘩だろうか? 「忍ちゃんが、福岡に行っちゃうの……明日、お引越しなの……」  そう言うと、ツクヨは大声で泣き始めた───春の風物詩、転校である。  翌朝、ツクヨと俺は忍ちゃんへ挨拶へ出掛けた。お別れの挨拶である。...
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オッツーのホワイトデー

「オッツー、おいで!」  オッツーは、アケミの犬かよ?  ホワイトデーの前日、俺とオッツーが昼休みの弁当を満喫し終えると、疾風の如くそれは起こった。 「え? オレ?」 「いいから、おいで!!」  アケミとゆきがオッツーを連れて教室から出ていったのだ。あの雰囲気から察するに、オッツーが何かをやらかしたのだろう。もしくは、アケミとゆき。どちらかの地雷を踏んだってところだな……お気の毒。  でもそれは、親友の一大事。俺は教室の窓から頭を出して廊下を覗く。すると、廊下の隅っこでアケミが身振り手振りで話をしている。オッツーは頷くだけだ。どう見ても、アケミにとっちめられている感じである。その内容が気にはな...
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銘菓ひよこがランチのデザート

高二の昼休み。  ゆきがアケミの教室に遊びに来た。その目的は、アケミと一緒に食後デザートを食べること。それは、特別なことでなく、週に何度も行われている女子会のようなものであった。俺とオッツーにとっては、アケミがゆきの教室へ来てくれるほうが有難かった。ゆきの隣は俺たちの教室だからな、おこぼれデザートにありつけるのだ。今日は、アケミの教室か……非常に残念に思いながら、俺とオッツーはゆきの背中を見送った。 「ねぇ、ねぇ、アケミちゃん。これ、どこから食べる?」  ゆきは、カバンの中からお菓子の包みを取り出した。 「あー、ひよこ! 九州のお土産? ひよこって、福岡だっけ? 東京だっけ? どっちでもいっか...
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天国にいちばん近い島

初めてのデートの夜。 「あのねぇ、行ってみたい島があるの。三縁さよりさんの住む町から近い所に……」  のんがつぶやく。 「島ですか?」  俺が答えると、のんは、慌てて話の矛先を変えた。 「あ、初対面なのに、ごめんなさい……ほら、見てみて、シロクマさん!」  細くて白い指先がシロクマの姿を追っている。俺は指しか見てないけれど……。 「いつか、一緒に行けたらいいですね」  今からでも、行きましょう! それが、俺の本心だった。でも俺は、その言葉が言い出せなかった。 「……うん」  のんは頬を赤く染めた。  素直に自分の気持ちを伝えられたら……。でもこれが、今の俺には精一杯だった。俺たちは付き合ってい...
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ツクヨ誘拐事件

オッツーは怒っていた。 怒りに身体を震わせていた。  俺たちの目の前でツクヨが車に連れ込まれたのだ。今の日本で、こんな田舎で、こんなことが起こるのか? いったい、この国は、どうなっちまったんだ!!!  車の後部座席から窓を叩くツクヨは、泣いているより絶叫だった。走り出す黒バンを条件反射で俺とオッツーとで追いかける。身体能力を比較すれば、俺が並みでオッツーは化け物だ。あいつの脚力は、本気を出さずともチャリで時速60キロを軽く超える。クロックアップしなくても、あの黒バンには決して負けない。そして俺たちは、この町を知り尽くしている。  俺たちから、逃げ切れるわけがない!  チャリのハンドルにスマホを...
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それぞれのバレンタイン

今日は、全国的にバレンタインの前日だった。  都会ではデパ地下が揺れる日らしい。けれど、こっちじゃマルナカがざわつく程度のことである。そして、俺にもオッツーにも無縁の日なのだからどうでもいい。  俺たちにチョコをくれるのはゆきだけである。毎年ゆきは、1粒だけチョコをくれる。ジャン=ポール・エヴァンのバレンタイン限定チョコだ。ゆきがパパに渡すついでに同じのをもう一箱買うのだ。それを、ママと一緒に食べている。俺たちのチョコはおこぼれである。だがしかし、これは、貴重なおこぼれだ。 「はい、お・す・そ・義理♡ 先生に見つからないでね」  バレンタインの朝。そう言って、ゆきはチョコを渡すのだ。義理とはい...
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ツクヨちゃんの富士山アポロ

オッツーと学校の門を抜けるとツクヨだった。  ツクヨと、じいちゃんと、忍しのぶちゃんが立っている。俺たちを見つけると、幼稚園児ふたりがコソコソと話し始める。どうして女の子は、早口でコソコソと喋るのだろう……それがいつも不思議だった。 「どうしたん? じいちゃん」  俺はじいちゃんに訊く。  じいちゃんは、にこにこ笑って何も言わない。じいちゃんの足元で、幼女のコソコソ話が終わらない。お前らそれ、御前会議か? コソコソの合間で「はよ、いけっ!」っと、忍ちゃんの声がする。忍ちゃんはツクヨと同じ幼稚園のモモ組さんだ。俺は忍ちゃんが苦手だった。それは、もうすぐ分かるだろう。 「コソコソ……コソコソコソコ...