日曜日(ブログ王スピンオフ)

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ツクヨ誘拐事件

オッツーは怒っていた。 怒りに身体を震わせていた。  俺たちの目の前でツクヨが車に連れ込まれたのだ。今の日本で、こんな田舎で、こんなことが起こるのか? いったい、この国は、どうなっちまったんだ!!!  車の後部座席から窓を叩くツクヨは、泣いているより絶叫だった。走り出す黒バンを条件反射で俺とオッツーとで追いかける。身体能力を比較すれば、俺が並みでオッツーは化け物だ。あいつの脚力は、本気を出さずともチャリで時速60キロを軽く超える。クロックアップしなくても、あの黒バンには決して負けない。そして俺たちは、この町を知り尽くしている。  俺たちから、逃げ切れるわけがない!  チャリのハンドルにスマホを...
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それぞれのバレンタイン

今日は、全国的にバレンタインの前日だった。  都会ではデパ地下が揺れる日らしい。けれど、こっちじゃマルナカがざわつく程度のことである。そして、俺にもオッツーにも無縁の日なのだからどうでもいい。  俺たちにチョコをくれるのはゆきだけである。毎年ゆきは、1粒だけチョコをくれる。ジャン=ポール・エヴァンのバレンタイン限定チョコだ。ゆきがパパに渡すついでに同じのをもう一箱買うのだ。それを、ママと一緒に食べている。俺たちのチョコはおこぼれである。だがしかし、これは、貴重なおこぼれだ。 「はい、お・す・そ・義理♡ 先生に見つからないでね」  バレンタインの朝。そう言って、ゆきはチョコを渡すのだ。義理とはい...
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ツクヨちゃんの富士山アポロ

オッツーと学校の門を抜けるとツクヨだった。  ツクヨと、じいちゃんと、忍しのぶちゃんが立っている。俺たちを見つけると、幼稚園児ふたりがコソコソと話し始める。どうして女の子は、早口でコソコソと喋るのだろう……それがいつも不思議だった。 「どうしたん? じいちゃん」  俺はじいちゃんに訊く。  じいちゃんは、にこにこ笑って何も言わない。じいちゃんの足元で、幼女のコソコソ話が終わらない。お前らそれ、御前会議か? コソコソの合間で「はよ、いけっ!」っと、忍ちゃんの声がする。忍ちゃんはツクヨと同じ幼稚園のモモ組さんだ。俺は忍ちゃんが苦手だった。それは、もうすぐ分かるだろう。 「コソコソ……コソコソコソコ...
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はじめてのセルフうどん

日曜日のお昼前。 「おじさーん、まだぁ?」  俺をおじさんと呼ぶんじゃない!  小さな背中に大きなリュック、ツクヨが俺の腕に絡みつく。今日は、これで何度目の催促だろう……。  セルフうどんを食べに行くだけなのに、ツクヨは幼稚園の遠足か何かと思い違いをしているようだ。とはいえ、ツクヨにとって、初めてのセルフうどん。よほど楽しみにしていたのであろう。にしても、このリュック。旅行ですか?のような重装備である。うどんを食べた帰り道。せっかくだから公園でツクヨを遊ばせよう。 「じゃ、ゲンちゃんいこか!」  今日の行先は、うどん屋ゲンちゃんである。 「ツクヨ、いっきまーす!!」  テテテテな感じで、ちびガ...
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じいちゃんの一番長い日

男の人が泣いていた……心の奥底から何もかもが湧き出るような涙だった。  幼き俺は、号泣する大人を初めて見た。その涙は、悲しいでもなく、うれしいでもなく。人が抱く感情すべてを、何層にも折り重ねたような涙に見えた。フィユタージュの涙を流しながら、俺の隣で泣き崩れた人。それは、俺の父親おやじ……オトンであった。  ばあちゃんが言っていた。 ───あの人が本気を出したら凄いのよ……。  じいちゃんの部屋にある古びたギター。弦の隙間にピンクのピック。それが、アンバランスさを醸かもしだす。そのギターの音色を俺は知らない。鼻歌混じりで畑仕事。そんな、陽気なじいちゃんだけれど、本当の歌声すら俺は知らない。ギタ...
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もうひとつの夏休み

「オレにはな……オレには……大切な仲間がいるんだぁぁぁぁ!!!」  とある夏の日。  少年の叫びがこだました。その声は、悲鳴にも似た叫びだった。  私の名は安藤導しるべ。  この子を将来へと導く男だ。少年の名は、尾辻正義おつじまさよし。友人の間ではオッツーと呼ばれている。風の噂で聞いたのだけれど、そのあだ名には〝おつじ〟の響きと、彼の挨拶が「オッツー(お疲れ)」だったのが起因らしい。立場上、私は彼を尾辻君と呼んでいるのだか……。  では、話を5分ほど前に巻き戻そう。 「もう、帰ってもいいですか?」  ダルそうな声で少年は言う。 「ダメに決まっています」  私は彼を帰さない。一歩たりとも譲歩じょ...
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屋島の瓦投げは幼女の恋文

元旦の朝。  俺たち放課後クラブは屋島山上で御来光ごらいこうを拝おがむ。  幼稚園時代から始まったこの行事は、俺たちが中学生になっても続いていた。ゆきは正月に海外旅行の予定がなければ参加した。つーか、いつの頃からか初日の出を拝んでから、ゆき一家はハワイへ家族旅行に出かけるようになっていた。  3学期の始業式。  小麦色の肌をしたゆきがハワイ土産を配るのも、放課後クラブの冬の風物詩になっていた。俺たちは、その日を“マカデミアナッツチョコの日”と呼んで楽しみにしていた。  話は戻って、初日の出。  今年の引率役はオトンだった。初孫の屋島デビューにオトンが張り切らないワケがない。なのに大晦日、オトン...